「まだ売上が立たないから、役員報酬はゼロにしておきたい」
「会社員のまま副業で法人を作ったので、報酬を取らないつもり」
役員報酬をゼロ(無報酬)にしたい場面は、意外と多くあります。
このとき気になるのが、社会保険がどうなるかです。
この記事では、役員報酬ゼロのときの健康保険・厚生年金の扱いと、国民健康保険・国民年金への切り替え、会社員との兼業の場合、税金への影響をまとめます。
根拠は日本年金機構の「新規適用の手続き」と国税庁のタックスアンサーで、2026年10月15日時点の内容を確認しています。
筆者はひとり会社の代表として、役員報酬の決定と社会保険の手続きを自分で行っています。
- 役員報酬がゼロの役員は、健康保険・厚生年金の被保険者になれない。役員が自分だけの会社なら、会社も社会保険の適用事業所になれない
- その場合、社長個人は国民健康保険と国民年金に入る(会社員との兼業なら、本業の社会保険のまま)
- 報酬ゼロでも会社の利益には法人税がかかり、均等割も毎年かかる。ゼロにする決議と議事録は残しておく
役員報酬ゼロだと社会保険に「入れない」
- 無報酬の役員は被保険者にならない
- 役員だけの会社は適用事業所になれない
- 「入らなくていい」ではなく「入れない」
無報酬の役員は被保険者にならない
健康保険と厚生年金の保険料は、報酬にかかります。
報酬がない役員は、保険料の計算のもとになる「標準報酬月額」が決まらないため、被保険者になりません。
日本年金機構の案内でも、無報酬の役員のみの法人は、被保険者となる人がいないとされています。
役員だけの会社は適用事業所になれない
法人は本来、人数にかかわらず社会保険の強制適用事業所です。
ただし、適用事業所になるには、被保険者となる人が少なくとも1人いる必要があります。
役員が自分だけで、その自分が無報酬なら、被保険者が0人なので、会社は適用事業所になれません。
すでに適用事業所になっている会社で、報酬をゼロにして被保険者がいなくなった場合は、「適用事業所全喪届」を出して、適用から外れます。
「入らなくていい」ではなく「入れない」
ここは誤解されやすい点です。
役員報酬ゼロは「社会保険に入らなくてよい」のではなく、「入りたくても入れない」状態です。
社会保険に入りたい(厚生年金を増やしたい、健康保険の扶養に家族を入れたい)なら、少額でも役員報酬を払う必要があります。
役員報酬を月5万円にした場合の保険料は、別の記事で計算しています。
社長個人はどうなるか:国保と国民年金への切り替え
- 国民健康保険に入る
- 国民年金に入る
- 保険料はどう決まるか
国民健康保険に入る
会社の健康保険に入れない社長は、住んでいる市区町村の国民健康保険に入ります。
それまで会社員だった人が退職して法人を作った場合は、退職から14日以内に市区町村で加入の手続きをします。
退職前の会社の健康保険を最長2年続ける「任意継続」という選択肢もあります。
国民年金に入る
年金は、国民年金の第1号被保険者になります。
20歳以上60歳未満の人が対象で、保険料は定額です(令和8年度は月1万7,920円)。
配偶者を扶養していた場合、配偶者も第3号被保険者ではなくなり、自分で第1号として国民年金に入ります。
保険料はどう決まるか
国民健康保険料は、前年の所得と世帯の人数で決まり、自治体によって計算方法が違います。
法人を作る前に個人事業で所得が多かった人は、翌年の国民健康保険料が高くなることがあります。
国民年金は定額なので、所得に関係なく同じ額です。
「報酬ゼロにすれば保険料が最も安くなる」かどうかは、国民健康保険料がいくらになるかで変わります。市区町村の試算と、役員報酬を少額払って社会保険に入った場合を比べてください。
会社員が副業で法人を持つ場合
- 無報酬なら、本業の社会保険のまま
- 報酬を払うと「二以上事業所勤務届」が必要
- 勤務先に知られる経路
無報酬なら、本業の社会保険のまま
会社員が副業で法人を作り、役員報酬をゼロにしている場合、社会保険は本業の勤務先のものがそのまま続きます。
副業の法人側では被保険者にならないので、手続きは何も発生しません。
この形は、副業の法人を持つ会社員でよく使われます。
報酬を払うと「二以上事業所勤務届」が必要
副業の法人からも役員報酬を払うと、本業と副業の両方で被保険者になります。
このとき、本人が年金事務所に「健康保険・厚生年金保険 被保険者所属選択・二以上事業所勤務届」を出し、主たる事業所を選びます。
保険料は、両方の報酬を合算した標準報酬月額をもとに、それぞれの報酬の比率で按分されます。
勤務先に知られる経路
二以上事業所勤務届を出すと、本業の勤務先に、按分後の保険料の通知が届きます。
つまり、副業の法人から報酬を取ると、保険料の変化を通じて本業の会社に副業が分かる可能性があります。
副業を勤務先に知られたくない場合に、役員報酬ゼロが選ばれるのは、この理由です。
ただし、就業規則で副業や役員就任が制限されていないかは、別途確認してください。
税金と手続きへの影響
- 会社の利益に法人税がかかる
- 均等割は赤字でもかかる
- ゼロにする決議と議事録
会社の利益に法人税がかかる
役員報酬は会社の経費なので、ゼロにすると、その分だけ会社の利益が増えます。
売上がある会社で報酬をゼロにすると、利益がそのまま残り、法人税の対象になります。
中小法人の法人税率は、所得800万円以下の部分で15%です。これに法人住民税と事業税が加わります。
個人として受け取れば給与所得控除や基礎控除が使えるため、利益が出ているなら、報酬を払ったほうが合計の税負担が下がることが多くあります。
均等割は赤字でもかかる
報酬をゼロにして会社の活動を小さくしても、法人住民税の均等割は毎年かかります。
均等割は、資本金と従業員数で決まる固定の税金で、小さな会社では年7万円前後が一般的です。
売上もなく報酬もゼロの「休眠に近い会社」でも、均等割は発生します。
ゼロにする決議と議事録
役員報酬をゼロにする場合も、株主総会(合同会社は社員の同意)で決めて、議事録を残します。
「払っていないから何も決めていない」より、「無報酬と決議した」のほうが、あとで報酬を払い始めるときにも説明がしやすくなります。
報酬を払い始めるときは、期首から3か月以内に決議し、社会保険の新規適用の手続きをします。
役員報酬ゼロと少額報酬の比較
| 項目 | 役員報酬ゼロ | 役員報酬 月5万円 |
|---|---|---|
| 健康保険・厚生年金 | 加入できない | 加入する(本人負担 月約1万1,000円) |
| 社長個人の保険 | 国民健康保険+国民年金 | 会社の健康保険+厚生年金 |
| 家族の扶養 | 国民健康保険には扶養の概念がなく、家族も加入者として保険料がかかる | 条件を満たせば健康保険の扶養に入れられる |
| 将来の年金 | 国民年金(基礎年金)のみ | 基礎年金+厚生年金(最低等級) |
| 法人税 | 利益が残れば課税 | 報酬分だけ利益が減る |
| 均等割 | かかる | かかる |
ユイ売上がまだないので、報酬はゼロにしようと思います。社会保険はどうなりますか?
ケイ報酬がないと被保険者になれないから、会社の社会保険には入れない。その間は国民健康保険と国民年金だね。
ユイ会社員のまま副業で作った法人なら?
ケイ無報酬なら本業の社会保険のままで、何も変わらない。報酬を取り始めると二以上事業所勤務届が要って、本業の会社に通知が行くから、そこは覚えておいて。
よくある質問
役員報酬ゼロでも、社会保険に加入できますか?
できません。
報酬がない役員は被保険者になれず、役員だけの会社は適用事業所にもなれません。
役員報酬ゼロのとき、社長はどの保険に入りますか?
国民健康保険と国民年金です。
会社員との兼業なら、本業の勤務先の健康保険と厚生年金がそのまま続きます。
途中で役員報酬を払い始めたら、どうすればよいですか?
株主総会で決議して議事録を残し、報酬の支払開始から5日以内に、年金事務所へ新規適用届と被保険者資格取得届を出します。
損金にするには、期首から3か月以内に決めるのが原則です。
役員報酬ゼロなら、会社の税金はかかりませんか?
利益が残れば法人税などがかかります。
利益がゼロや赤字でも、法人住民税の均等割は毎年かかります。
無報酬でも議事録は必要ですか?
残しておくことをすすめます。
「無報酬と決議した」記録があると、あとで報酬を払い始めるときの説明がしやすくなります。
副業の法人から報酬を取ると、本業の会社に分かりますか?
二以上事業所勤務届を出すと、本業の勤務先に按分後の保険料の通知が届くため、分かる可能性があります。
まとめ:次の一手
役員報酬をゼロにすると、健康保険・厚生年金には加入できず、社長個人は国民健康保険と国民年金に入ります。会社員との兼業なら、本業の社会保険のままです。
報酬ゼロでも、会社の利益には法人税がかかり、均等割は毎年かかります。ゼロにする決議と議事録は残しておきます。
次の一手は、市区町村で国民健康保険料の試算をもらい、役員報酬を月5万円にして社会保険に入った場合の保険料と比べることです。
その計算は、役員報酬5万円の社会保険料の記事で確認できます。
