役員報酬の仕訳は、ひとり会社で毎月必ず発生する記帳です。
総額、手取り、社会保険料、源泉所得税、住民税が絡むので、最初は「借方と貸方に何を書くのか」で止まりがちです。
この記事では、役員報酬の仕訳を、支払時、社会保険料の納付時、源泉所得税の納付時、未払計上の順に、ひとり会社の記帳例で説明します。
根拠は会計の一般的な処理と、国税庁(源泉所得税)・日本年金機構(社会保険料)の仕組みで、2026年10月15日時点の内容を確認しています。
筆者はひとり会社の代表として、自分の役員報酬の仕訳を毎月自分で記帳しています。
- 役員報酬の支払時は「役員報酬(総額)/普通預金(手取り)+預り金(社会保険料の本人負担・源泉所得税・住民税)」の1本で書く
- 社会保険料は、本人負担分を預り金、会社負担分を法定福利費で処理し、翌月末の納付時に預り金と法定福利費を取り崩す
- 源泉所得税は納期の特例なら年2回の納付時に預り金を取り崩す。月末締め翌月払いなら、決算月は未払金で計上する
支払時の仕訳:総額・手取り・預り金
- 仕訳の型:役員報酬/普通預金+預り金
- 預り金の内訳:社会保険料・源泉所得税・住民税
- 記帳例(月額30万円の場合)
仕訳の型:役員報酬/普通預金+預り金
役員報酬を払うときの仕訳は、借方に「役員報酬」の総額、貸方に「普通預金」(実際に振り込んだ手取り額)と「預り金」(天引きした分)を書きます。
天引きした社会保険料の本人負担分、源泉所得税、住民税は、会社が一時的に預かっているお金なので「預り金」です。
借方の合計(総額)と、貸方の合計(手取り+預り金)は、必ず一致します。
預り金の内訳:社会保険料・源泉所得税・住民税
預り金は、内訳ごとに補助科目を分けておくと、納付時の処理が楽になります。
「預り金(社会保険料)」は、健康保険料と厚生年金保険料の本人負担分です。
「預り金(源泉所得税)」は、給与所得の源泉徴収税額表で計算した所得税です。
「預り金(住民税)」は、市区町村から届いた特別徴収税額の通知の月額です。設立1年目で通知が届くまでは発生しません。
記帳例(月額30万円の場合)
役員報酬30万円、社会保険料の本人負担が4万2,600円(東京・令和8年度・介護保険なし)、源泉所得税が6,000円、住民税が1万5,000円の場合の例です。
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 役員報酬 | 300,000 | 普通預金 | 236,400 |
| 預り金(社会保険料) | 42,600 | ||
| 預り金(源泉所得税) | 6,000 | ||
| 預り金(住民税) | 15,000 |
源泉所得税の額は、扶養の人数で変わります。会計ソフトの給与計算機能か、国税庁の源泉徴収税額表で計算します。
社会保険料の仕訳:本人負担は預り金、会社負担は法定福利費
- 会社負担分は「法定福利費」
- 納付時の仕訳(翌月末)
- 子ども・子育て支援金と介護保険料の扱い
会社負担分は「法定福利費」
社会保険料は、本人と会社が半分ずつ負担します。
本人負担分は、支払時に預り金として処理済みです。
会社負担分は、会社の経費なので「法定福利費」で処理します。
発生主義で処理する場合は、報酬を払った月に「法定福利費/未払金」で計上し、納付時に未払金を取り崩します。ひとり会社では、納付時にまとめて「法定福利費/普通預金」とする簡便な処理でも、期中は問題になりにくいですが、決算月は未払計上します。
納付時の仕訳(翌月末)
社会保険料は、翌月末に口座振替で引き落とされます。
本人負担分(預り金)と会社負担分(法定福利費)を合わせた額が、1本で引き落とされます。
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 預り金(社会保険料) | 42,600 | 普通預金 | 85,200 |
| 法定福利費 | 42,600 |
実際の引き落とし額は、端数処理や子ども・子育て支援金の分で本人負担と会社負担が数円から数百円ずれることがあります。差額は法定福利費で調整します。
子ども・子育て支援金と介護保険料の扱い
令和8年4月分から加わった子ども・子育て支援金は、健康保険料と同じように本人と会社で負担します。本人分は預り金、会社分は法定福利費です。
40歳から64歳の介護保険料も同じ扱いです。
いずれも、年金事務所からの納入告知書の内訳で確認できます。
源泉所得税・住民税の納付時の仕訳
- 源泉所得税の納付(納期の特例なら年2回)
- 住民税の特別徴収の納付
- 年末調整で還付したときの仕訳
源泉所得税の納付(納期の特例なら年2回)
源泉所得税は、原則として翌月10日、納期の特例の承認を受けていれば7月10日と1月20日に納めます。
納付時は、預り金(源泉所得税)を取り崩します。
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 預り金(源泉所得税) | 36,000 | 普通預金 | 36,000 |
6か月分(6,000円×6)をまとめて納めた例です。
税額が0円の月が続く場合は、預り金は発生せず、納付書だけを0円で出します。
住民税の特別徴収の納付
住民税は、毎月10日(納期の特例を受けていれば6月と12月の年2回)に、市区町村に納めます。
納付時は、預り金(住民税)を取り崩します。
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 預り金(住民税) | 15,000 | 普通預金 | 15,000 |
住民税の納期の特例は、源泉所得税とは別の手続き(市区町村への申請)です。
年末調整で還付したときの仕訳
年末調整で所得税を還付する場合、12月の役員報酬の支払時に、還付額を手取りに上乗せします。
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 役員報酬 | 300,000 | 普通預金 | 246,400 |
| 預り金(源泉所得税) | 10,000 | 預り金(社会保険料) | 42,600 |
| 預り金(源泉所得税) | 6,000 | ||
| 預り金(住民税) | 15,000 |
還付額1万円を預り金(源泉所得税)の借方に書き、その分だけ手取りが増える形です。翌年1月の納付では、預り金の残高(徴収額−還付額)を納めます。
未払計上と、払えなかった場合の仕訳
- 月末締め翌月払いの未払計上
- 決算月の処理
- 資金不足で払えなかった場合
月末締め翌月払いの未払計上
役員報酬を「当月分を翌月に払う」としている場合、発生した月に「役員報酬/未払金」で計上し、翌月の支払時に未払金を取り崩します。
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 役員報酬 | 300,000 | 未払金 | 300,000 |
支払時は、未払金を借方にして、貸方に普通預金と預り金を書きます。
決算月の処理
決算月の役員報酬を翌月に払う場合、決算月に未払計上しないと、その期の経費が11か月分になってしまいます。
決算月には必ず未払計上して、12か月分の役員報酬を経費にします。
会社負担の社会保険料も同様に、決算月分を「法定福利費/未払金」で計上します。
資金不足で払えなかった場合
資金繰りの都合で役員報酬を払えなかった月は、「役員報酬/未払金」で計上し、未払金のまま残します。
定期同額給与の要件は「支給額が同額」であることで、未払いでも支給額が同額に決まっていれば、損金として扱われています。
ただし、長期間未払いが続くと、実態として支給していないと見られるリスクがあるので、資金ができたときに払います。源泉所得税は、実際に支払った時点で徴収・納付します。
役員報酬に関わる勘定科目の一覧
| 科目 | 使う場面 | 借方・貸方 |
|---|---|---|
| 役員報酬 | 報酬の総額(経費) | 借方 |
| 普通預金 | 手取りの振込、各種納付 | 貸方 |
| 預り金(社会保険料) | 本人負担分の天引きと納付 | 天引き時は貸方、納付時は借方 |
| 預り金(源泉所得税) | 所得税の天引きと納付、年末調整の還付 | 同上 |
| 預り金(住民税) | 住民税の天引きと納付 | 同上 |
| 法定福利費 | 社会保険料の会社負担分(経費) | 借方 |
| 未払金 | 翌月払い・未払いの報酬、会社負担保険料の未払計上 | 計上時は貸方、支払時は借方 |
ユイ役員報酬を振り込んだんですが、手取りの額をそのまま「役員報酬」にすればいいですか?
ケイだめ。借方は総額の「役員報酬」、貸方は手取りの「普通預金」と、天引きした分の「預り金」。総額と、手取り+預り金が一致するように書く。
ユイ社会保険料の会社負担分は、どこに書きますか?
ケイ「法定福利費」。本人負担分は預り金で、翌月末の引き落としのときに、預り金と法定福利費の両方を取り崩す。
よくある質問
役員報酬の支払時の仕訳は?
借方に「役員報酬」(総額)、貸方に「普通預金」(手取り)と「預り金」(社会保険料の本人負担・源泉所得税・住民税)です。
社会保険料の会社負担分の勘定科目は?
「法定福利費」です。
本人負担分は「預り金」で処理します。
源泉所得税を納めたときの仕訳は?
借方に「預り金(源泉所得税)」、貸方に「普通預金」です。
納期の特例なら、6か月分をまとめて納めます。
役員報酬を翌月払いにしている場合は?
発生した月に「役員報酬/未払金」で計上し、支払時に「未払金/普通預金+預り金」で取り崩します。
決算月は必ず未払計上します。
役員報酬を払えなかった月は、どう処理しますか?
「役員報酬/未払金」で計上して、未払金のまま残します。
資金ができたときに払い、源泉所得税は支払時に徴収・納付します。
年末調整の還付は、どう仕訳しますか?
12月の支払時に、還付額を「預り金(源泉所得税)」の借方に書き、手取りに上乗せします。
まとめ:次の一手
役員報酬の仕訳は、支払時に「役員報酬(総額)/普通預金(手取り)+預り金(社会保険料・源泉所得税・住民税)」、社会保険料の会社負担分は「法定福利費」、納付時にそれぞれの預り金を取り崩す、という流れです。
翌月払いや未払いは「未払金」で計上し、決算月は必ず未払計上します。
次の一手は、会計ソフトで預り金の補助科目(社会保険料・源泉所得税・住民税)を作り、毎月の役員報酬の仕訳をテンプレートとして登録することです。
社長が会社にお金を貸した場合の「役員借入金」の仕訳は、あわせて読みたい記事で説明しています。
