「役員報酬は最低いくらにしないといけないのか」という質問には、「法律上の下限はない」が答えです。
ただし、社会保険の最低等級、所得税と住民税の非課税の範囲、ゼロにした場合の扱いを知らないと、「下げたのに保険料が変わらない」「手取りが足りず会社のお金を使ってしまう」ということが起きます。
この記事では、役員報酬の最低額を、法律上の扱い、社会保険の最低等級、所得税と住民税がかからない範囲、ゼロにした場合、最低額にするメリットとデメリット、金額別の保険料と手取りの比較の順に説明します。
根拠は、会社法(役員報酬の決定)、健康保険法・厚生年金保険法(標準報酬月額の等級)、所得税法(給与所得控除・基礎控除)、地方税法(住民税の非課税限度額)、協会けんぽの保険料額表で、2026年10月16日時点の内容を確認しています。控除額や保険料率は年により変わるので、その年の数字で確認してください。
筆者はひとり会社の代表と個人事業主を兼ね、役員報酬の額と社会保険料の関係を自分で試算して決めています。
- 役員報酬に法律上の最低額はなく、ゼロでも1円でもよい。ただし、報酬を払えば社会保険に加入し、保険料は最低でも健康保険1等級(標準報酬月額5.8万円)・厚生年金1等級(8.8万円)で計算されるので、月5万円でも月8.8万円でも厚生年金保険料は同じ(会社と本人で合計約1.6万円)
- 所得税がかからないのは、給与所得控除と基礎控除を引いてゼロになる年収約110万円程度まで(月約9万円)。住民税は自治体の非課税限度額(年収100万円前後)まで。月8.8万円前後の役員報酬は、社会保険料が最低等級で、所得税・住民税もほぼゼロになる組み合わせ
- 最低額のメリットは社会保険料の最小化と会社に利益を残せること。デメリットは、将来の厚生年金が減る、手取りが少なく生活費を会社から借りる形(役員貸付金)になりやすい、融資の審査で代表者の収入が低く見られること。生活費が別にある人(二刀流・配偶者の収入・貯蓄)向けの設定
法律上の最低額はない。ただし「実務上の最低ライン」が4つある
- 法律:会社法は役員報酬の額を定款か株主総会(社員の同意)で決めるとだけ定め、最低額の規定はない。税法も最低額を定めていない(過大な役員報酬の損金不算入はあるが、過少の規定はない)
- 実務上の4つのライン:1 社会保険の最低等級(5.8万円・8.8万円)、2 所得税がかからない範囲(年収約110万円)、3 住民税がかからない範囲(年収100万円前後)、4 生活に必要な額
- ゼロの場合:役員報酬がゼロなら社会保険の被保険者にならず、国民健康保険と国民年金に自分で入る。個人事業の収入で生活する二刀流の人の型
法律:会社法は役員報酬の額を定款か株主総会(社員の同意)で決めるとだけ定め、最低額の規定はない。税法も最低額を定めていない(過大な役員報酬の損金不算入はあるが、過少の規定はない)
会社法は、役員報酬を定款か株主総会の決議(合同会社は社員の同意)で決めることを求めているだけで、額の下限はありません。
最低賃金法は労働者に適用される法律で、役員(委任契約)には適用されません。
税法にも、役員報酬の「最低額」の規定はなく、低すぎる役員報酬が税務上問題になることは原則ありません。
実務上の4つのライン:1 社会保険の最低等級(5.8万円・8.8万円)、2 所得税がかからない範囲(年収約110万円)、3 住民税がかからない範囲(年収100万円前後)、4 生活に必要な額
法律上の下限がない一方で、金額を決めるときに意識する「ライン」が4つあります。
社会保険の最低等級より下げても保険料は下がらないライン、所得税がゼロになるライン、住民税がゼロになるライン、そして生活費をまかなえるラインです。
ゼロの場合:役員報酬がゼロなら社会保険の被保険者にならず、国民健康保険と国民年金に自分で入る。個人事業の収入で生活する二刀流の人の型
役員報酬をゼロにすると、「報酬を受けて業務に従事している」状態ではないので、社会保険の被保険者になりません。
会社としての新規適用届も、被保険者がいなければ出さなくてよく、本人は国民健康保険と国民年金に加入します。
個人事業の所得で生活し、法人は別の事業や資産管理に使う、という二刀流の人が選ぶ型です。
社会保険の最低等級:月5.8万円と8.8万円の意味
- 健康保険:標準報酬月額の1等級は5.8万円(報酬月額6.3万円未満)。保険料は5.8万円×料率(協会けんぽで約10%、40歳以上は介護保険を加えて約11.6%)で、会社と本人で折半。月約5,800円(40歳未満)の合計
- 厚生年金:1等級は8.8万円(報酬月額9.3万円未満)。保険料は8.8万円×18.3%=約1.6万円の合計で、会社と本人で約8,000円ずつ。報酬が月5万円でも8.8万円でも、厚生年金保険料は同じ
- 意味:報酬を8.8万円より下げても、社会保険料の合計(健康保険+厚生年金)はほとんど減らない。保険料を最小にする目的なら、月8.8万円前後(9.3万円未満)が実質的な最低ライン
健康保険:標準報酬月額の1等級は5.8万円(報酬月額6.3万円未満)。保険料は5.8万円×料率(協会けんぽで約10%、40歳以上は介護保険を加えて約11.6%)で、会社と本人で折半。月約5,800円(40歳未満)の合計
健康保険の標準報酬月額は、1等級の5.8万円から50等級の139万円まであります。
報酬月額が6.3万円未満なら、すべて1等級の5.8万円で保険料が計算されます。
協会けんぽの保険料率は都道府県で違いますが約10%で、5.8万円×10%=約5,800円を会社と本人で折半し、40歳以上は介護保険料が加わります。
厚生年金:1等級は8.8万円(報酬月額9.3万円未満)。保険料は8.8万円×18.3%=約1.6万円の合計で、会社と本人で約8,000円ずつ。報酬が月5万円でも8.8万円でも、厚生年金保険料は同じ
厚生年金の標準報酬月額は、1等級の8.8万円から32等級の65万円までです。
報酬月額が9.3万円未満なら、すべて1等級の8.8万円で計算され、保険料は8.8万円×18.3%=16,104円を会社と本人で折半します。
役員報酬を月5万円にしても、厚生年金保険料は月8.8万円のときと同じです。
意味:報酬を8.8万円より下げても、社会保険料の合計(健康保険+厚生年金)はほとんど減らない。保険料を最小にする目的なら、月8.8万円前後(9.3万円未満)が実質的な最低ライン
健康保険は5.8万円まで、厚生年金は8.8万円までが最低等級なので、役員報酬を月6万円から月9万円の間で動かしても、保険料の差は健康保険の数百円程度です。
社会保険料を最小にすることが目的なら、「月9.3万円未満」が実質的な最低ラインで、それ以上下げる意味はほとんどありません。
所得税・住民税がかからない範囲
- 所得税:年収から給与所得控除(最低65万円)と基礎控除(最大58万円。所得に応じて変動)、社会保険料控除を引いて課税所得がゼロなら、所得税はゼロ。社会保険料控除も加わるので、年収110万円程度(月約9万円)までは所得税がかからない目安(その年の控除額で確認)
- 住民税:均等割(年5,000円程度)と所得割がかからない非課税限度額は、自治体により年収100万円前後(給与収入のみ、扶養なしの場合。級地区分で93万〜100万円)。それを超えると均等割から発生
- 組み合わせ:月8.8万円(年105.6万円)前後の役員報酬は、社会保険料が最低等級、所得税ゼロ、住民税は非課税限度額をわずかに超えるかどうかの境目。月8万円台なら、保険料と税の合計が最も小さい設定になる
所得税:年収から給与所得控除(最低65万円)と基礎控除(最大58万円。所得に応じて変動)、社会保険料控除を引いて課税所得がゼロなら、所得税はゼロ。社会保険料控除も加わるので、年収110万円程度(月約9万円)までは所得税がかからない目安(その年の控除額で確認)
給与の所得税は、年収から給与所得控除を引いて給与所得を出し、基礎控除と社会保険料控除などを引いた課税所得に税率を掛けます。
給与所得控除の最低額と基礎控除、本人負担の社会保険料控除を合わせると、年収110万円程度までは課税所得がゼロになり、所得税はかかりません。
控除額は税制改正で変わる(2025年分から給与所得控除の最低額と基礎控除が引き上げられた)ので、その年の国税庁の数字で確認します。
住民税:均等割(年5,000円程度)と所得割がかからない非課税限度額は、自治体により年収100万円前後(給与収入のみ、扶養なしの場合。級地区分で93万〜100万円)。それを超えると均等割から発生
住民税は、所得税より低い年収から発生します。
自治体の級地区分により、給与収入が93万円から100万円を超えると均等割(年5,000円程度)がかかり、さらに所得割も発生します。
年収100万円前後が、住民税がかからない目安です。
組み合わせ:月8.8万円(年105.6万円)前後の役員報酬は、社会保険料が最低等級、所得税ゼロ、住民税は非課税限度額をわずかに超えるかどうかの境目。月8万円台なら、保険料と税の合計が最も小さい設定になる
社会保険の最低等級(9.3万円未満)、所得税ゼロ(年収110万円程度)、住民税ゼロ(年収100万円前後)を重ねると、月8万円台前半の役員報酬が、保険料と税の合計が最も小さくなる設定です。
月8.8万円(年105.6万円)だと、住民税の均等割と少額の所得割がかかる可能性がありますが、それでも年数千円程度です。
最低額にするメリット・デメリットと、金額別の比較
- メリット:社会保険料が年間約27万円(会社+本人、40歳未満)に抑えられる。扶養の家族も健康保険に入れられる(国民健康保険より有利)。会社に利益を残して法人税率(15%)で課税され、個人の高い税率を避けられる
- デメリット:厚生年金の受取額が最低等級で計算され、将来の年金が少ない。手取りが月7万円台で生活費に足りず、会社から引き出すと役員貸付金(利息と返済が必要)になる。創業融資や住宅ローンで代表者の収入が低く見られる。会社に残した利益を将来個人に移すときに課税される
- 向いている人:個人事業の所得や配偶者の収入、貯蓄で生活費をまかなえる人。会社の利益を内部留保して事業に再投資したい人。社会保険の加入だけが目的のマイクロ法人
メリット:社会保険料が年間約27万円(会社+本人、40歳未満)に抑えられる。扶養の家族も健康保険に入れられる(国民健康保険より有利)。会社に利益を残して法人税率(15%)で課税され、個人の高い税率を避けられる
最低等級の役員報酬なら、健康保険(約5,800円)と厚生年金(約16,100円)を合わせて月約2.2万円、年約27万円の社会保険料で済みます(40歳未満・協会けんぽの場合)。
国民健康保険と国民年金を自分で払う場合(所得によるが年40万〜60万円になることも)と比べて安く、しかも配偶者を扶養に入れれば配偶者の分の保険料はかかりません。
会社に残った利益は、所得800万円以下なら15%の法人税率で課税され、個人の所得税(最大45%)より低く抑えられます。
デメリット:厚生年金の受取額が最低等級で計算され、将来の年金が少ない。手取りが月7万円台で生活費に足りず、会社から引き出すと役員貸付金(利息と返済が必要)になる。創業融資や住宅ローンで代表者の収入が低く見られる。会社に残した利益を将来個人に移すときに課税される
厚生年金の報酬比例部分は標準報酬月額で決まるので、最低等級を続けると、将来の年金は国民年金に少し上乗せされる程度です。
月8.8万円の手取りは7万円台で、これで生活できない人が会社のお金を引き出すと、役員貸付金として利息の計上と返済が必要になり、融資の審査でも不利です。
会社に残した利益を将来、退職金や配当で個人に移すときには、改めて課税されます。
向いている人:個人事業の所得や配偶者の収入、貯蓄で生活費をまかなえる人。会社の利益を内部留保して事業に再投資したい人。社会保険の加入だけが目的のマイクロ法人
最低額の役員報酬は、「生活費は別にある」人向けの設定です。
個人事業で生活費を稼ぎ、法人で社会保険に入るマイクロ法人の型が典型で、配偶者の収入で生活している人や、しばらく貯蓄で暮らして会社に利益を貯めたい人も該当します。
生活費を役員報酬でまかなう人は、最低額ではなく、生活費+税・保険料から逆算した額にします。
役員報酬の月額別の保険料と手取りの目安(40歳未満・協会けんぽ約10%・扶養なし)
| 役員報酬(月) | 健康保険の等級(標準報酬) | 厚生年金の等級(標準報酬) | 社会保険料(会社+本人の合計/月) | 本人負担(月) | 所得税・住民税(月換算の目安) | 手取り(月の目安) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 0円 | 加入せず(国保・国民年金) | — | 0円(国保・国民年金は別) | — | 0円 | 0円 |
| 5万円 | 1等級(5.8万円) | 1等級(8.8万円) | 約21,900円 | 約11,000円 | 0円 | 約39,000円 |
| 8.8万円 | 3等級(8.8万円) | 1等級(8.8万円) | 約24,900円 | 約12,500円 | 住民税数百円程度 | 約75,000円 |
| 10万円 | 4等級(9.8万円) | 2等級(9.8万円) | 約27,700円 | 約13,900円 | 約1,000円 | 約85,000円 |
| 15万円 | 9等級(15万円) | 7等級(15万円) | 約42,500円 | 約21,200円 | 約4,000円 | 約125,000円 |
| 20万円 | 14等級(20万円) | 12等級(20万円) | 約56,600円 | 約28,300円 | 約8,000円 | 約164,000円 |
保険料率と控除額は年により変わるため、目安です。月5万円と8.8万円で保険料がほぼ同じであることが分かります。
ユイ役員報酬を月3万円にして、保険料を最小にしたいです。
ケイ3万円にしても、保険料は最低等級(健康保険5.8万円・厚生年金8.8万円)で計算されるから、月8万円台とほとんど変わらない。保険料を最小にしたいなら、月8万円台にして手取りを確保するほうが合理的。
ユイ最低額にすると、何か困ることはありますか?
ケイ将来の厚生年金が最低等級で計算されて少ない。手取りが7万円台だから、生活費を会社から引き出すと役員貸付金になって面倒。融資の審査でも代表者の収入として見られる。生活費が別にある人向けの設定だよ。
よくある質問
役員報酬の最低額は法律で決まっていますか?
決まっていません。
会社法にも税法にも下限はなく、ゼロでも構いません。最低賃金法は役員には適用されません。
社会保険料が最も安くなる役員報酬はいくらですか?
健康保険は月6.3万円未満、厚生年金は月9.3万円未満で最低等級になります。
それ以下に下げても保険料はほぼ変わらないので、月8万円台が実質的な最低ラインです。
所得税がかからないのは年収いくらまでですか?
給与所得控除と基礎控除、社会保険料控除を引いてゼロになる、年収110万円程度までが目安です。
控除額はその年の税制で確認します。
住民税はいくらからかかりますか?
自治体の非課税限度額(年収93万〜100万円)を超えると、均等割から発生します。
役員報酬をゼロにするとどうなりますか?
社会保険の被保険者にならず、国民健康保険と国民年金に自分で加入します。
個人事業の収入で生活する二刀流の型です。
最低額にするデメリットは何ですか?
将来の厚生年金が少ない、手取りが少なく会社のお金を引き出すと役員貸付金になる、融資の審査で代表者の収入が低く見られる、の3つです。
まとめ:次の一手
役員報酬に法律上の最低額はありませんが、社会保険料は健康保険5.8万円・厚生年金8.8万円の最低等級が下限で、月8万円台にすれば保険料が最小かつ所得税ゼロ・住民税ほぼゼロになり、それ以上下げる意味はほとんどありません。
最低額は保険料の最小化と会社への利益の留保に向く一方、年金・手取り・融資で不利になるので、生活費が別にある人(二刀流・配偶者の収入・貯蓄)向けの設定です。
次の一手は、自分の生活費を役員報酬でまかなう必要があるかを確認し、必要なら生活費から逆算した額、不要なら月8万円台の最低ラインで、上の表の保険料と手取りを当てはめて決めることです。
月5万円にした場合の社会保険料の詳細は、あわせて読みたい記事で確認してください。
