役員報酬を変えるとき、ひとり会社では「自分で決めて自分に払う」だけに見えますが、税務上は「期首から3か月以内に会社として決めた」という証拠が必要です。
その証拠が、合同会社なら社員の同意書、株式会社なら株主総会議事録で、作っていないと定期同額給与の要件を満たしているかを疑われ、報酬が損金不算入になる恐れがあります。
この記事では、役員報酬変更の議事録(同意書)の書き方を、必要な理由、合同会社と株式会社のひな形、記載事項の注意、保管と提出先、よくある不備、合わせて行う届出の順に説明します。
根拠は、会社法(役員報酬の決定、株主総会議事録、合同会社の社員の同意)、法人税法(定期同額給与、役員給与の改定時期)、国税庁(役員給与に関するQ&A)で、2026年10月16日時点の内容を確認しています。
筆者はひとり会社で役員報酬を改定するたびに、同意書を自分で作って保管しています。
- 役員報酬を変えたら、合同会社は「総社員の同意書」、株式会社は「株主総会議事録」を作って保管する。ひとり会社でも必要で、税務調査で「期首から3か月以内に決めた」ことを示す唯一の証拠になる。税務署に提出はしないが、ないと定期同額給与の要件を疑われる
- 書くのは、決議(同意)の日付、会社名、議案「役員報酬の改定の件」、変更前の月額と変更後の月額、適用する支払月(○年○月支給分から)、決議した旨、社員(株主・議長)の記名押印。日付は事業年度開始から3か月以内の日にする
- よくある不備は、日付が3か月を過ぎている、議事録の額と実際の支給額が違う、議事録を作らず口頭で決めたことにしている、の3つ。変更後は社会保険の月額変更届(2等級以上の変動で4か月目に提出)も忘れない
議事録(同意書)が必要な理由
- 会社法:役員報酬は定款か株主総会(合同会社は定款か社員の同意)で決める。ひとり会社でも、会社と役員は別の人格で、会社が決めた記録が必要
- 税務:役員報酬が損金になる条件(定期同額給与)は、期首から3か月以内に改定し、以後毎月同額であること。「3か月以内に決めた」ことを示す書面が議事録(同意書)で、税務調査でまず求められる
- ないとどうなるか:口頭で決めたと主張しても証明できず、改定が3か月以内か疑われる。最悪、増額分が損金不算入になり、法人税が増える。作るのに10分なので、必ず作る
会社法:役員報酬は定款か株主総会(合同会社は定款か社員の同意)で決める。ひとり会社でも、会社と役員は別の人格で、会社が決めた記録が必要
会社法では、株式会社の取締役の報酬は定款または株主総会の決議で定め、合同会社の社員の報酬は定款または総社員の同意で定めます。
ひとり会社でも、会社と代表者は法律上別の人格なので、「会社が役員の報酬をいくらと決めた」という記録を残します。
税務:役員報酬が損金になる条件(定期同額給与)は、期首から3か月以内に改定し、以後毎月同額であること。「3か月以内に決めた」ことを示す書面が議事録(同意書)で、税務調査でまず求められる
法人税法では、役員報酬が損金になる主な形が「定期同額給与」で、改定は事業年度開始から3か月以内に行う必要があります。
税務調査では、「この改定は3か月以内に決めたものか」を確認するために、議事録や同意書の提示を求められます。
ないとどうなるか:口頭で決めたと主張しても証明できず、改定が3か月以内か疑われる。最悪、増額分が損金不算入になり、法人税が増える。作るのに10分なので、必ず作る
議事録がないと、改定の時期を証明できません。
3か月を過ぎた改定とみなされれば、増額分は損金不算入で、法人税が増えます。
議事録は、ひな形に日付と金額を入れるだけで作れるので、改定のたびに必ず作ります。
合同会社の「総社員の同意書」のひな形
- 構成:表題「総社員の同意書」、日付(期首から3か月以内)、会社名、同意した事項(役員報酬の改定)、変更前と変更後の月額、適用開始(○年○月支給分から)、社員全員の記名押印(ひとり会社なら代表社員1人)
- ひな形の本文は下記
- ポイント:月額を明記する(年額だけだと毎月同額かが分からない)。適用開始の支払月を書く。社員が複数なら全員分の報酬と記名押印
構成:表題「総社員の同意書」、日付(期首から3か月以内)、会社名、同意した事項(役員報酬の改定)、変更前と変更後の月額、適用開始(○年○月支給分から)、社員全員の記名押印(ひとり会社なら代表社員1人)
合同会社では、株主総会に相当する機関がなく、総社員の同意で決めます。
「総社員の同意書」という表題で、日付、会社名、同意した内容、社員の記名押印を書きます。
ひな形の本文は下記
総社員の同意書
令和○年○月○日
合同会社○○
当会社の社員全員は、下記の事項について同意する。
記
1 代表社員 ○○○○の報酬を、令和○年○月支給分より、
月額金○○○,○○○円(改定前:月額金○○○,○○○円)に改定する。
2 支給日は毎月○日とし、以後、毎月同額を支給する。
以上
上記のとおり同意したことを証するため、本書を作成し、社員全員が記名押印する。
令和○年○月○日
合同会社○○
代表社員 ○○○○ (印)
ポイント:月額を明記する(年額だけだと毎月同額かが分からない)。適用開始の支払月を書く。社員が複数なら全員分の報酬と記名押印
定期同額給与は「毎月同額」が要件なので、月額を明記します。
「○月支給分から」と、適用を始める支払月を書きます(期首から3か月以内の支給分から適用する必要があります)。
社員が2人以上いる場合は、それぞれの報酬を書き、全員が記名押印します。
株式会社の「株主総会議事録」のひな形
- 構成:表題「臨時株主総会議事録」(定時総会で決めるなら「定時株主総会議事録」)、開催日時と場所、株主の総数と議決権の数、出席株主と議決権の数、議長の氏名、議案「役員報酬改定の件」、審議と決議の内容(変更後の月額、適用開始)、閉会、議事録作成者の記名押印
- ひな形の本文は下記
- ポイント:報酬の総額を総会で決め、各取締役への配分は取締役会(または取締役の決定)に委ねる形も多いが、ひとり会社なら総会で個別の額まで決めてよい。取締役が1人なら取締役会は不要
構成:表題「臨時株主総会議事録」(定時総会で決めるなら「定時株主総会議事録」)、開催日時と場所、株主の総数と議決権の数、出席株主と議決権の数、議長の氏名、議案「役員報酬改定の件」、審議と決議の内容(変更後の月額、適用開始)、閉会、議事録作成者の記名押印
株式会社は、株主総会の議事録として作ります。
期首の定時株主総会で決めるなら定時株主総会議事録、それ以外の時期なら臨時株主総会議事録です。
ひとり株主・ひとり取締役なら、開催の形式は簡略でよく、書面で決議したことにする方法(書面決議)もあります。
ひな形の本文は下記
臨時株主総会議事録
1 開催日時 令和○年○月○日 午前○時○分
2 開催場所 当会社本店(東京都○○区○○)
3 株主の総数 1名
発行済株式の総数 ○○株
議決権を有する株主の数 1名 その議決権の数 ○○個
4 出席株主の数 1名 その議決権の数 ○○個
5 議長 代表取締役 ○○○○
6 議事の経過の要領及びその結果
第1号議案 役員報酬改定の件
議長は、当会社の業績および職務内容を考慮し、取締役の報酬を
令和○年○月支給分より、下記のとおり改定したい旨を述べ、
その賛否を議場に諮ったところ、満場一致でこれを承認可決した。
記
代表取締役 ○○○○ 月額金○○○,○○○円(改定前:月額金○○○,○○○円)
支給日は毎月○日とし、以後、毎月同額を支給する。
以上をもって本総会の議事を終了したので、議長は閉会を宣した。
上記の決議を明確にするため、本議事録を作成する。
令和○年○月○日
株式会社○○ 臨時株主総会
議事録作成者 代表取締役 ○○○○ (印)
ポイント:報酬の総額を総会で決め、各取締役への配分は取締役会(または取締役の決定)に委ねる形も多いが、ひとり会社なら総会で個別の額まで決めてよい。取締役が1人なら取締役会は不要
一般の株式会社では、株主総会で取締役全員の報酬の上限(総額)を決め、個別の配分は取締役会に任せる形が多いですが、ひとり会社では株主総会で個別の月額まで決めて構いません。
取締役が1人なら取締役会はなく、株主総会議事録だけで足ります。
記載の注意、保管と提出先、よくある不備、合わせて行う届出
- 記載の注意:決議の日付は期首から3か月以内(3月決算なら4月1日〜6月30日)。変更前と変更後の月額を両方書く。適用開始の支給月は、決議日以降で3か月以内の支給分から。給与台帳・給与明細の額と一致させる
- 保管と提出先:税務署や法務局には提出しない(役員報酬は登記事項ではない)。会社で定款・過去の議事録と一緒に保管し、税務調査で求められたら提示。10年保存(会社法の議事録の保存期間)
- よくある不備と合わせて行う届出:日付が3か月を過ぎている/額が実際の支給額と違う/議事録がない/年額しか書いていない。変更後、標準報酬月額が2等級以上変わるなら、変更後3か月の支給を経て4か月目に社会保険の月額変更届を年金事務所へ
記載の注意:決議の日付は期首から3か月以内(3月決算なら4月1日〜6月30日)。変更前と変更後の月額を両方書く。適用開始の支給月は、決議日以降で3か月以内の支給分から。給与台帳・給与明細の額と一致させる
日付は、事業年度の開始日から3か月以内の日にします。
3月決算なら、4月1日から6月30日の間です。決議の日より前の支給分にさかのぼって適用することはできません。
変更前と変更後の月額を書き、会計ソフトの給与計算に登録した額と一致させます。議事録と給与台帳の額が違うと、議事録の信頼性が疑われます。
保管と提出先:税務署や法務局には提出しない(役員報酬は登記事項ではない)。会社で定款・過去の議事録と一緒に保管し、税務調査で求められたら提示。10年保存(会社法の議事録の保存期間)
議事録や同意書は、どこにも提出しません。
役員報酬の額は登記事項ではないので法務局は関係なく、税務署にも申告書に添付しません。
会社で、定款と過去の議事録と一緒に保管し、税務調査のときに提示します。会社法上、株主総会議事録は本店に10年間備え置きます。
よくある不備と合わせて行う届出:日付が3か月を過ぎている/額が実際の支給額と違う/議事録がない/年額しか書いていない。変更後、標準報酬月額が2等級以上変わるなら、変更後3か月の支給を経て4か月目に社会保険の月額変更届を年金事務所へ
不備で多いのは、決算と申告が終わってから「そういえば報酬を上げていた」と気づいて、日付をさかのぼって作ることです(日付の偽装は論外で、実際に3か月以内に決めていたなら、その日付で作ることは問題ありません)。
もう1つは、会計ソフトで報酬額を変えたが議事録を作っていない、というケースです。
役員報酬を変えたら、同意書(議事録)の作成と、社会保険の月額変更届(変更後3か月の平均が2等級以上変わった場合、4か月目に提出)をセットで行います。
役員報酬変更の議事録(同意書)の記載事項チェックリスト
| 項目 | 合同会社(総社員の同意書) | 株式会社(株主総会議事録) | 確認 |
|---|---|---|---|
| 表題 | 総社員の同意書 | 臨時(定時)株主総会議事録 | □ |
| 日付 | 同意日(期首から3か月以内) | 開催日(期首から3か月以内) | □ |
| 会社名 | 記載 | 記載 | □ |
| 出席者 | 社員全員 | 出席株主と議決権の数、議長 | □ |
| 議案 | 役員報酬の改定 | 役員報酬改定の件 | □ |
| 変更前の月額 | 記載 | 記載 | □ |
| 変更後の月額 | 記載 | 記載 | □ |
| 適用開始 | ○年○月支給分から | ○年○月支給分から | □ |
| 毎月同額の旨 | 記載 | 記載 | □ |
| 記名押印 | 社員全員 | 議事録作成者(代表取締役) | □ |
| 保管 | 定款と一緒に10年 | 本店に10年備え置き | □ |
| 給与台帳との一致 | 確認 | 確認 | □ |
| 月額変更届 | 2等級以上の変動なら4か月目 | 同左 | □ |
ユイ自分ひとりの会社なのに、自分の報酬を決めた議事録を自分で作るんですか?
ケイそう。会社と自分は別の人格で、会社が決めた記録が要る。税務調査で「期首から3か月以内に決めた」証拠として、まず議事録を見せてと言われる。ひな形に日付と金額を入れるだけだから、10分で作って定款と一緒に保管しよう。
ユイ議事録は税務署に出すんですか?
ケイ出さない。法務局にも出さない。会社で保管して、調査のときに見せるだけ。ただし、日付が3か月を過ぎていたり、金額が給与明細と違っていたりすると、逆に不利になるから、正確に作る。
よくある質問
役員報酬を変えるとき、議事録は必要ですか?
必要です。
合同会社は総社員の同意書、株式会社は株主総会議事録を作り、期首から3か月以内に決めた証拠として保管します。
ひとり会社でも作りますか?
作ります。
会社と代表者は別の人格で、税務調査で改定の時期を示す唯一の書面です。
何を書きますか?
日付、会社名、議案(役員報酬の改定)、変更前と変更後の月額、適用開始の支給月、毎月同額の旨、社員(議事録作成者)の記名押印です。
日付はいつにしますか?
事業年度の開始から3か月以内の、実際に決めた日です。
3月決算なら4月1日から6月30日です。
税務署に提出しますか?
しません。
法務局にも提出せず、会社で定款と一緒に10年保管して、税務調査で提示します。
議事録のほかに必要な手続きはありますか?
標準報酬月額が2等級以上変わる場合は、変更後3か月の支給を経て4か月目に社会保険の月額変更届を年金事務所に出します。
まとめ:次の一手
役員報酬を変えたら、合同会社は総社員の同意書、株式会社は株主総会議事録を、期首から3か月以内の日付で、変更前後の月額と適用開始月を明記して作り、税務署には出さずに会社で10年保管します。
日付の超過、額の不一致、作成漏れが典型的な不備で、変更後は社会保険の月額変更届もセットで行います。
次の一手は、上のひな形をコピーして自社の会社名・日付・金額を入れ、会計ソフトの給与計算の額と一致していることを確認して、定款のファイルに綴じることです。
役員報酬を変更できるタイミングの詳細は、あわせて読みたい記事で確認してください。
