期首に役員報酬を変えたあと、「社会保険の手続きは何か要るの?」と気づくのは、たいてい数か月たってからです。
役員報酬の変更で等級が2段階以上動いたときに出すのが「月額変更届」で、出すタイミングも、新しい保険料が始まる時期も、変えた月から数えて決まります。
この記事では、役員報酬を変えたときの月額変更届について、随時改定の3つの要件、いつ出すか、書き方と記入例、1等級しか変わらない場合、出し忘れた場合、算定基礎届との関係を説明します。
根拠は日本年金機構の「随時改定(月額変更届)」の案内で、2026年10月15日時点の内容を確認しています。
筆者はひとり会社の代表として、役員報酬の変更にともなう月額変更届を自分で出しています。
- 役員報酬を変えて、変動月から3か月の平均で標準報酬月額が2等級以上動いたら、「月額変更届」を年金事務所に出す。1等級の変動なら不要
- 提出は、変動後の報酬を初めて受けた月から3か月が経ったとき。新しい標準報酬月額は、変動月から数えて4か月目の分から適用される
- 出し忘れると、年金事務所の調査で指摘され、さかのぼって保険料を納める。7〜9月に随時改定があると、算定基礎届より月額変更届が優先される
随時改定の3つの要件:役員報酬の変更で当てはまるか
- 要件1:固定的賃金(役員報酬)が変わった
- 要件2:変動月から3か月の平均で2等級以上の差
- 要件3:3か月とも支払基礎日数が17日以上
要件1:固定的賃金(役員報酬)が変わった
随時改定の1つ目の要件は、固定的賃金が変動したことです。
役員報酬は、額が決まっている固定的賃金なので、増額でも減額でも、変更すればこの要件に当てはまります。
残業代のような変動する賃金の増減だけでは対象にならない、という条件は、役員報酬には関係しません。
要件2:変動月から3か月の平均で2等級以上の差
2つ目は、変動した月から引き続く3か月の報酬の平均で求めた標準報酬月額が、それまでの標準報酬月額と比べて2等級以上ちがうことです。
役員報酬を月20万円から30万円に変えた場合、標準報酬月額は20万円(17等級)から30万円(22等級)で、5等級の差があるので該当します。
月20万円から22万円なら、20万円(17等級)から22万円(18等級)で1等級の差なので、該当しません。
標準報酬月額の上限または下限にかかる変更は、1等級差でも対象になる例外があります。
要件3:3か月とも支払基礎日数が17日以上
3つ目は、変動月からの3か月とも、報酬の支払基礎日数が17日以上あることです。
毎月役員報酬が支払われている役員は、暦日数が支払基礎日数になるので、この要件は自動的に満たします。
いつ出すか・いつから変わるか
- 提出:変動後の報酬を初めて受けた月から3か月が経ったとき
- 適用:変動月から数えて4か月目の標準報酬月額から
- 引き落としが変わるのは5か月目の末
提出:変動後の報酬を初めて受けた月から3か月が経ったとき
月額変更届は、変動後の報酬を初めて受けた月から3か月間の報酬が確定してから出します。
7月分の報酬から変えたなら、7・8・9月の3か月分が確定した10月に提出します。
日本年金機構の案内では、「速やかに」とされており、確定したらすぐに出します。
適用:変動月から数えて4か月目の標準報酬月額から
新しい標準報酬月額は、変動月から数えて4か月目の分から適用されます。
7月分から変えたなら、10月分の標準報酬月額から変わります。
年金事務所から「標準報酬改定通知書」が届くので、保存します。
引き落としが変わるのは5か月目の末
社会保険料は翌月末に納めるので、10月分の保険料は11月末の引き落としです。
つまり、7月に報酬を変えた場合、実際の引き落とし額が変わるのは11月末からです。
役員報酬の変更から保険料の変更まで4か月以上のずれがあることを、資金繰りの予定に入れておきます。
書き方と記入例(ひとり社長が月20万円→30万円にした場合)
- 上段:事業所と被保険者の情報、従前の標準報酬月額
- 中段:3か月の支払基礎日数と報酬月額
- 下段:改定年月・備考
上段:事業所と被保険者の情報、従前の標準報酬月額
届書の正式名称は「健康保険・厚生年金保険 被保険者報酬月額変更届(70歳以上被用者月額変更届)」です。
上段に、事業所整理記号、事業所番号、事業所の名称と所在地、事業主の氏名を書きます。
被保険者ごとに、被保険者整理番号、氏名、生年月日、個人番号(または基礎年金番号)、そして「従前の標準報酬月額」(健康保険と厚生年金それぞれ)と「従前改定月」(その標準報酬月額が決まった年月)を書きます。
中段:3か月の支払基礎日数と報酬月額
変動後の報酬を初めて受けた月から3か月分について、月ごとに「支払基礎日数」(役員なら暦日数)、「通貨による額」(役員報酬の額)、「現物による額」(通常0)、「合計」を書きます。
3か月の合計と、その平均額(総計÷3)を書きます。
「昇給・降給の区分」と「昇(降)給月」(変動月)も記入します。
下段:改定年月・備考
「改定年月」には、変動月から数えて4か月目の年月を書きます。
7月変動なら「10月」です。
記入例を表にまとめます(7月分から20万円→30万円、従前は前年9月の定時決定)。
| 欄 | 記入例 |
|---|---|
| 従前の標準報酬月額 | 健保 200千円 / 厚年 200千円 |
| 従前改定月 | 前年 9月 |
| 昇(降)給月・区分 | 7月・昇給 |
| 7月:支払基礎日数・通貨 | 31日・300,000円 |
| 8月:支払基礎日数・通貨 | 31日・300,000円 |
| 9月:支払基礎日数・通貨 | 30日・300,000円 |
| 総計・平均額 | 900,000円・300,000円 |
| 改定年月 | 10月 |
電子申請なら、日本年金機構の届書作成プログラムで作成し、e-Govから送信します。
1等級しか変わらない場合・出し忘れた場合・算定基礎届との関係
- 1等級しか変わらない場合:届出不要、7月の算定基礎届で決め直す
- 出し忘れた場合:さかのぼって保険料を納める
- 7〜9月の随時改定は算定基礎届より優先
1等級しか変わらない場合:届出不要、7月の算定基礎届で決め直す
2等級以上動かない変更は、随時改定の対象外で、月額変更届は出しません。
その場合、標準報酬月額は、翌年7月の算定基礎届(定時決定)で、4〜6月の報酬をもとに決め直されるまでそのままです。
保険料も変わりません。
出し忘れた場合:さかのぼって保険料を納める
月額変更届を出し忘れると、年金事務所の調査や算定基礎届の内容から指摘され、本来の改定月にさかのぼって標準報酬月額が訂正されます。
増額の場合は、さかのぼった分の保険料の差額を納めます。
減額の場合は、払いすぎた保険料が還付されますが、時効(2年)を過ぎた分は戻りません。
気づいた時点で、遅れてでも提出します。
7〜9月の随時改定は算定基礎届より優先
期首が4月の会社で6月末に役員報酬を変え、7月分から新しい額になった場合、7月が変動月になり、随時改定の対象なら10月改定の月額変更届を出します。
日本年金機構の案内では、7月・8月・9月に随時改定が該当する人は、算定基礎届の提出対象から除き、月額変更届を出します(8月・9月の予定者は、算定基礎届にその旨を申し出ます)。
算定基礎届と月額変更届を両方出す必要はなく、月額変更届が優先です。
算定基礎届と月額変更届の違い
| 項目 | 算定基礎届(定時決定) | 月額変更届(随時改定) |
|---|---|---|
| きっかけ | 毎年の決まった手続き | 固定的賃金(役員報酬)の変更 |
| 対象期間 | 4・5・6月の報酬 | 変動月からの3か月の報酬 |
| 提出時期 | 7月1日〜7月10日 | 変動月から3か月経過後、速やかに |
| 適用開始 | 9月分から | 変動月から4か月目の分から |
| 要件 | 7月1日現在の被保険者全員 | 2等級以上の変動+支払基礎日数17日以上 |
| 両方該当する場合 | 7〜9月の随時改定者は除外 | 優先される |
ユイ期首に役員報酬を20万円から30万円にしました。年金事務所に何か出すんですか?
ケイ出す。5等級動くから随時改定の対象。変更後の報酬を3か月受けたら月額変更届を出して、4か月目から新しい等級になる。
ユイ20万円から22万円なら?
ケイ1等級しか動かないから届出は不要。来年7月の算定基礎届で決め直されるまで、保険料はそのまま。
よくある質問
役員報酬を変えたら、必ず月額変更届が必要ですか?
変動月からの3か月の平均で、標準報酬月額が2等級以上動く場合に必要です。
1等級の変動なら不要です。
月額変更届は、いつ出しますか?
変動後の報酬を初めて受けた月から3か月の報酬が確定したあと、速やかに出します。
7月変動なら10月です。
新しい保険料は、いつから変わりますか?
変動月から数えて4か月目の標準報酬月額から適用され、その保険料は翌月末に納めます。
7月変動なら、10月分から適用、11月末の引き落としから変わります。
出し忘れたら、どうなりますか?
本来の改定月にさかのぼって訂正され、増額なら保険料の差額を納めます。
気づいたら遅れてでも提出します。
算定基礎届と重なったら、どちらを出しますか?
7〜9月に随時改定が該当する場合は、月額変更届が優先され、算定基礎届の対象から除かれます。
減額した場合も月額変更届は必要ですか?
必要です。
2等級以上下がる場合も随時改定の対象で、保険料が下がります。出さないと払いすぎのままになります。
まとめ:次の一手
役員報酬を変えて、変動月からの3か月の平均で標準報酬月額が2等級以上動いたら、3か月経過後に月額変更届を年金事務所に出し、新しい等級は4か月目の分から適用されます。
1等級の変動なら不要で、7〜9月の随時改定は算定基礎届より優先されます。出し忘れると、さかのぼって保険料を納めます。
次の一手は、役員報酬を変えた月をカレンダーに書き、3か月後に「月額変更届」の予定を入れることです。
役員報酬の変更そのもののルール(期首から3か月以内)は、あわせて読みたい記事で確認してください。
