法人成りを決めたあと、実際に何をどの順番でやるかは、意外と整理されていません。
会社の設立、個人事業の廃業、資産の引き継ぎ、取引先への案内が同時に進むため、どれかを忘れがちです。
この記事では、法人成りの手続きを、会社の設立、個人側の廃業手続き、法人側の届出、資産と契約の引き継ぎ、社会保険と共済、取引先と許認可、最後の確定申告の順に、期限つきの一覧にします。
根拠は国税庁、日本年金機構、中小機構、法務局の案内で、2026年10月15日時点の内容を確認しています。
筆者は個人事業主として開業したあと法人を設立し、個人と法人の両方の申告を自分で行っています。
- 法人成りは「会社を設立する」「個人事業を廃業する」「資産・契約・許認可を会社に移す」の3つの流れが同時に進む。順番を決めて一覧で管理する
- 個人側の届出は、廃業届(1か月以内)、青色申告の取りやめ届(翌年3月15日まで)、給与支払事務所の廃止届、消費税の事業廃止届(課税事業者だった場合)の4つ
- 在庫・備品・車などは売買か現物出資で会社に移し、個人側で譲渡の処理をする。許認可は個人のものを引き継げず、法人で取り直す
全体の流れ:3つの手続きが同時に進む
- 流れ1:会社を設立する
- 流れ2:個人事業を廃業する
- 流れ3:資産・契約・許認可を会社に移す
流れ1:会社を設立する
まず、株式会社か合同会社を設立します。
定款を作り、資本金を払い込み、法務局に登記を申請します。申請日が設立日です。
個人事業の屋号を商号に使うこともできます。
設立の流れは、合同会社を自分で設立する記事で説明しています。
流れ2:個人事業を廃業する
会社ができたら、個人事業を廃業します。
税務署に廃業届を出し、青色申告の取りやめや消費税の届出など、個人側の手続きを閉じていきます。
「廃業日」は、法人に事業を移した日にするのが一般的で、設立日と同じか、その前後にします。
流れ3:資産・契約・許認可を会社に移す
在庫、備品、車、借入金などの資産と負債を会社に移します。
取引先との契約、事務所の賃貸借、銀行口座、許認可も、会社名義に切り替えます。
この「移す」作業が、法人成りでいちばん手間のかかる部分です。
個人側の手続き:税務署への4つの届出と確定申告
- 個人事業の開業・廃業等届出書(1か月以内)
- 青色申告の取りやめ届・給与支払事務所の廃止届・消費税の事業廃止届
- 最後の確定申告(翌年3月15日まで)
個人事業の開業・廃業等届出書(1か月以内)
税務署に「個人事業の開業・廃業等届出書」を、廃業の日から1か月以内に出します。
廃業の理由の欄に「法人成り」と書き、設立した法人の名称と所在地を記入する欄があります。
都道府県税事務所にも、個人事業税のための「事業廃止の届出」を出します(様式は自治体ごと)。
青色申告の取りやめ届・給与支払事務所の廃止届・消費税の事業廃止届
個人で青色申告をしていた場合は、「所得税の青色申告の取りやめ届出書」を、廃業した年の翌年3月15日までに出します。
個人事業で従業員や専従者に給与を払っていた場合は、「給与支払事務所等の開設・移転・廃止届出書」で「廃止」を届け出ます(1か月以内)。
個人で消費税の課税事業者だった場合は、「事業廃止届出書」を出します。インボイスの登録をしていた場合は、「適格請求書発行事業者の登録の取消しを求める旨の届出書」も必要です。
最後の確定申告(翌年3月15日まで)
廃業した年は、1月1日から廃業日までの事業所得を、翌年3月15日までに確定申告します。
法人から受け取った役員報酬は給与所得として、同じ確定申告書に合算します(年末調整を法人で済ませていれば、給与所得の源泉徴収票を添えます)。
廃業の年の事業所得には、資産を会社に売った場合の譲渡の処理も含まれます。
事業税の見込額を廃業年の必要経費にできる特例もあるので、申告のときに確認します。
法人側の届出と、資産・契約の引き継ぎ
- 法人側の届出一式
- 資産の引き継ぎ:売買・現物出資・賃貸
- 契約・口座・許認可の切り替え
法人側の届出一式
法人側では、通常の設立後の届出を行います。
税務署に法人設立届出書(2か月以内)、給与支払事務所等の開設届出書(1か月以内)、納期の特例の申請書、青色申告の承認申請書(3か月以内)。
都道府県と市町村に法人設立届。年金事務所に新規適用届と資格取得届(報酬開始から5日以内)。
法人設立届出書の「その他参考事項」や給与支払事務所の届出書には、法人成りにより廃業した個人事業の事業主名や納税地を書く欄があります。
資産の引き継ぎ:売買・現物出資・賃貸
個人の在庫、備品、車などを会社で使うには、会社に移す必要があります。
方法は3つで、会社に売る(売買)、資本金として出資する(現物出資)、個人が会社に貸す(賃貸)です。
売買の場合、個人側では譲渡所得または事業所得として申告し、法人側では購入の処理をします。価格は時価が基本です。
現物出資は、定款に出資の目的と価額を書き、登記のときに「資本金の額の計上に関する証明書」が必要になります。
個人の借入金を会社に引き継ぐには、銀行の同意を得て債務引受の手続きをします。
契約・口座・許認可の切り替え
取引先との契約は、法人名義で結び直すか、契約上の地位を法人に移す覚書を交わします。
事務所の賃貸借契約も、貸主の承諾を得て法人名義に変えます。
事業用の銀行口座は、法人口座を新たに開設し、入金先の変更を取引先に案内します。
古物商、建設業、宅建業などの許認可は、個人の許可を法人に引き継げません。法人として新たに取得し、その後に個人の許可を返納します。許可が下りるまでの空白期間ができないよう、設立と同時に法人の申請を進めます。
社会保険・共済と、取引先への案内
- 国民健康保険・国民年金から社会保険へ
- 小規模企業共済・経営セーフティ共済の引き継ぎ
- 取引先・銀行への案内と請求書の切り替え
国民健康保険・国民年金から社会保険へ
法人で役員報酬を払い始めると、健康保険と厚生年金に加入します。
年金事務所の手続きが済んで資格確認書(または保険証相当のもの)が届いたら、市区町村で国民健康保険の脱退の手続きをします。
国民年金は、厚生年金の資格取得により自動的に切り替わります。
小規模企業共済・経営セーフティ共済の引き継ぎ
小規模企業共済は、法人の役員になって1年以内に「同一人通算」の手続きをすれば、納付月数を引き継いで続けられます。
経営セーフティ共済は、事由が生じた日から3か月以内に「契約承継申出書」を出すと、法人に契約を引き継げます。
どちらも期限があるので、設立後の一覧に入れておきます。
取引先・銀行への案内と請求書の切り替え
取引先には、法人成りの日付、新しい商号、所在地、振込先の変更を文書やメールで案内します。
請求書は、法人成り後の取引から法人名義で発行し、インボイス登録をする場合は法人の登録番号を載せます。
銀行には、法人口座の開設とあわせて、個人の事業用口座の扱い(解約か個人用に戻すか)を伝えます。
法人成りの手続き一覧(順番と期限)
| 順番 | 手続き | 窓口 | 期限 |
|---|---|---|---|
| 1 | 会社の設立登記 | 法務局 | 任意(申請日が設立日) |
| 2 | 法人側の設立後の届出(税務署4枚・都道府県・市町村) | 各窓口 | 設立から2か月以内など |
| 3 | 役員報酬の決定、新規適用届・資格取得届 | 年金事務所 | 報酬開始から5日以内 |
| 4 | 個人事業の開業・廃業等届出書 | 税務署 | 廃業から1か月以内 |
| 5 | 事業廃止の届出(個人事業税) | 都道府県税事務所 | 自治体ごと |
| 6 | 給与支払事務所等の廃止届(個人で給与を払っていた場合) | 税務署 | 1か月以内 |
| 7 | 消費税の事業廃止届・インボイス登録の取消届(該当者) | 税務署 | 速やかに |
| 8 | 資産の引き継ぎ(売買・現物出資・賃貸)、借入金の債務引受 | 社内・銀行 | 廃業日前後 |
| 9 | 契約・口座・許認可の切り替え、取引先への案内 | 各先 | 廃業日前後 |
| 10 | 小規模企業共済の同一人通算 | 中小機構 | 法人成りから1年以内 |
| 11 | 経営セーフティ共済の契約承継 | 登録取扱機関 | 3か月以内 |
| 12 | 国民健康保険の脱退 | 市区町村 | 社会保険の加入後 |
| 13 | 所得税の青色申告の取りやめ届出書 | 税務署 | 翌年3月15日まで |
| 14 | 廃業年の確定申告(事業所得+給与所得) | 税務署 | 翌年3月15日まで |
ユイ法人成りって、会社を作ればそれで終わりだと思っていました。
ケイ会社の設立は入口。個人事業の廃業届、資産の引き継ぎ、取引先への案内、共済の手続きまでやって、やっと完了なんだ。
ユイ古物商の許可は、そのまま会社で使えますか?
ケイ使えない。許認可は個人から法人に引き継げないから、法人として取り直す。空白期間ができないように、設立と同時に申請を進めよう。
よくある質問
法人成りしたら、個人事業の廃業届は必要ですか?
必要です。
「個人事業の開業・廃業等届出書」を廃業から1か月以内に税務署へ出し、都道府県税事務所にも事業廃止の届出をします。
個人の青色申告はどうなりますか?
「所得税の青色申告の取りやめ届出書」を、廃業した年の翌年3月15日までに出します。
法人側では、別途「青色申告の承認申請書」を設立から3か月以内に出します。
在庫や備品は、どうやって会社に移しますか?
会社に売る(売買)、資本金として出資する(現物出資)、個人が会社に貸す(賃貸)の3つの方法があります。
売買なら時価で取引し、個人側で譲渡の処理をします。
個人の許認可は、会社に引き継げますか?
引き継げません。
法人として新たに取得し、取得後に個人の許可を返納します。
法人成りした年の確定申告は、どうなりますか?
廃業日までの事業所得と、法人からの役員報酬(給与所得)を合算して、翌年3月15日までに確定申告します。
小規模企業共済は、解約しないといけませんか?
法人の役員になれば、1年以内に「同一人通算」の手続きをして続けられます。
経営セーフティ共済は3か月以内の「契約承継」で引き継げます。
まとめ:次の一手
法人成りの手続きは、会社の設立、個人事業の廃業(廃業届・青色申告の取りやめ・給与支払事務所の廃止・消費税の届出)、資産と契約と許認可の引き継ぎ、社会保険と共済の切り替え、取引先への案内、最後の確定申告という流れで、順番と期限を一覧で管理します。
許認可は法人で取り直し、共済は期限内に引き継ぎの手続きをします。
次の一手は、上の一覧表をコピーして、自分の事業に当てはまる行に日付を書き込むことです。
会社の設立そのものの流れは、合同会社を自分で設立する記事で確認してください。
