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設立・開業 | 公開 2026.10.16

法人成りの資産引継ぎの仕訳|在庫・備品・車・借入金を会社に移す3つの方法(売買・現物出資・賃貸)と、個人側・法人側それぞれの記帳例

法人成りの資産引継ぎの仕訳|在庫・備品・車・借入金を会社に移す3つの方法(売買・現物出資・賃貸)と、個人側・法人側それぞれの記帳例

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法人成りで迷う実務の筆頭が、「個人で使っていた在庫やパソコン、車を、どうやって会社のものにするか」です。

個人と法人は別の人格なので、「そのまま使う」はできず、売買・現物出資・賃貸のどれかの形で移し、仕訳を切る必要があります。

この記事では、法人成りの資産引継ぎの仕訳を、3つの方法ごとに、個人側と法人側の記帳例で説明し、資産の種類ごとの扱い、時価、消費税、借入金の引き継ぎ、開始貸借対照表の作り方までまとめます。

根拠は国税庁のタックスアンサー(譲渡所得・事業所得の区分、現物出資、消費税の課税対象)と会社法(現物出資)で、2026年10月16日時点の内容を確認しています。金額が大きい資産や不動産の引き継ぎは、税理士に確認してください。

筆者は個人事業主として開業したあと法人を設立し、備品の引き継ぎを自分で処理しました。

記事のポイント
  • 個人の資産を会社に移す方法は3つ。「売買」は会社が個人から時価で買う(最も一般的)、「現物出資」は資産を資本金として出資する(登記で証明書が必要)、「賃貸」は個人が会社に貸す(所有は個人のまま)
  • 売買の仕訳は、法人側「備品/役員借入金(または普通預金)」、個人側は事業所得(在庫)または譲渡所得(備品・車)として処理する。代金を払わずに役員借入金にしておく形が多い
  • 借入金は、銀行の同意を得て債務引受する。引き継ぐ資産と負債を一覧にして、法人の「開始貸借対照表」を作り、引き継ぎの日に一括で記帳する

3つの方法:売買・現物出資・賃貸

法人成りの資産引継ぎの3つの方法を、売買は会社が時価で買う・現物出資は資本金として出資・賃貸は個人が会社に貸すの3つに分けて図解したインフォグラフィックです。
  • 売買:会社が個人から時価で買う(最も一般的)
  • 現物出資:資産を資本金として出資する(登記で証明書が必要)
  • 賃貸:個人が会社に貸す(所有は個人のまま)

売買:会社が個人から時価で買う(最も一般的)

会社が、個人(社長)から資産を時価で買い取る方法です。

手続きが簡単で、設立後にいつでもできるため、最も使われます。

代金を実際に払ってもよいし、払わずに「役員借入金」(会社が社長に借りている状態)にしておいて、あとで会社から返す形でも構いません。

現物出資:資産を資本金として出資する(登記で証明書が必要)

設立のときに、金銭の代わりに資産を出資して資本金にする方法です。

定款に現物出資の内容と価額を書き、登記のときに「資本金の額の計上に関する証明書」などが必要で、価額が500万円を超えると原則として検査役の調査(または弁護士・税理士などの証明)が必要になります。

手続きが増えるので、ひとり会社では、金銭で設立してから売買で移す方法のほうが簡単です。

賃貸:個人が会社に貸す(所有は個人のまま)

個人が資産を持ったまま、会社に貸して賃料を受け取る方法です。

車や不動産など、名義変更の手間や税金がかかる資産で使われます。

個人側は不動産所得や雑所得として賃料を申告し、法人側は賃借料を経費にします。無償で貸す場合は、個人側に所得は発生しません。

売買の仕訳:資産の種類ごとの記帳例

売買による資産引継ぎの仕訳を、法人側は資産/役員借入金・個人側は在庫なら事業所得で備品や車なら譲渡所得・時価は簿価や中古相場を目安の3つに分けて図解したインフォグラフィックです。
  • 法人側:資産/役員借入金(または普通預金)
  • 個人側:在庫は事業所得、備品・車は譲渡所得
  • 時価の決め方:帳簿価額(未償却残高)か中古の相場

法人側:資産/役員借入金(または普通預金)

会社が個人からパソコン(時価15万円)と在庫(時価30万円)を買い、代金を払わず役員借入金にした場合です。

借方 金額 貸方 金額
工具器具備品 150,000 役員借入金 450,000
商品(棚卸資産) 300,000

代金を法人口座から払ったなら、貸方は「普通預金」です。

備品は、法人側で改めて減価償却します(中古資産の耐用年数の見積もりを使えます)。

個人側:在庫は事業所得、備品・車は譲渡所得

個人側では、会社への売却を、資産の種類で分けて処理します。

在庫(商品)の売却は、個人事業の売上として「事業所得」です。

備品、車、機械など、減価償却をしていた固定資産の売却は、「譲渡所得」(総合課税)です。売却額から未償却残高と譲渡費用を引いた額が所得で、50万円の特別控除があります。

事業用の資産でも、売却益は事業所得ではなく譲渡所得になる点が、間違えやすいところです。

個人側の仕訳(備品を15万円で売却、未償却残高15万円の場合)は「事業主貸 150,000 / 工具器具備品 150,000」で、損益は出ません。

時価の決め方:帳簿価額(未償却残高)か中古の相場

売買の価格は「時価」が原則です。

備品や車は、個人の帳簿の未償却残高(簿価)を時価とみなして売却するのが、実務で最も多い方法です。中古市場の相場が分かる資産(車など)は、相場を参考にします。

著しく安く(または高く)売ると、差額が贈与や役員給与とみなされるリスクがあるため、根拠のある価格にします。

借入金・預金・消費税の扱い

法人成りの借入金と預金と消費税を、借入金は銀行の同意を得て債務引受・預金は移さず個人のまま・個人が課税事業者なら売却に消費税がかかるの3つに分けて図解したインフォグラフィックです。
  • 借入金:銀行の同意を得て「債務引受」。引き受けた分は役員借入金と相殺できる
  • 預金:個人口座のお金は移さず、必要な分を役員借入金として入れる
  • 消費税:個人が課税事業者なら、会社への売却は課税売上になる

借入金:銀行の同意を得て「債務引受」。引き受けた分は役員借入金と相殺できる

個人事業の借入金を会社に引き継ぐには、銀行の同意を得て、会社が債務を引き受ける「債務引受」の手続きをします(社員の同意書・議事録を求められることがあります)。

法人側の仕訳は「役員借入金 ○○ / 借入金 ○○」(資産の売買で生じた役員借入金と、引き受けた借入金を相殺する形)、または「役員貸付金 / 借入金」です。

銀行が同意しない場合は、個人の借入のまま、個人が返済を続けます。

預金:個人口座のお金は移さず、必要な分を役員借入金として入れる

個人口座の預金は「引き継ぐ」ものではなく、個人の財産のままです。

会社に運転資金が必要なら、資本金として出資するか、役員借入金として会社の口座に入れます。

法人の仕訳は「普通預金 / 役員借入金」です。

消費税:個人が課税事業者なら、会社への売却は課税売上になる

個人が消費税の課税事業者だった場合、会社への在庫や備品の売却は課税売上になり、廃業年の消費税の申告に含めます。

会社側は、設立1期目が免税なら仕入税額控除は関係ありませんが、課税事業者なら仕入税額控除の対象です。

個人が免税事業者なら、消費税の処理はありません。

開始貸借対照表の作り方と、引き継ぎの進め方

法人成りの引き継ぎの進め方を、引き継ぐ資産と負債を一覧にする・開始貸借対照表を作る・引き継ぎ日に一括で記帳するの3つに分けて図解したインフォグラフィックです。
  • 手順1:引き継ぐ資産と負債を一覧にし、時価を決める
  • 手順2:開始貸借対照表(設立時の貸借対照表)を作る
  • 手順3:引き継ぎの日に、法人側で一括して記帳する

手順1:引き継ぐ資産と負債を一覧にし、時価を決める

個人事業の帳簿(固定資産台帳・在庫表)から、会社で使う資産を選び、それぞれの時価(簿価や相場)を一覧にします。

引き継がない資産(個人で使い続けるもの)は、個人の帳簿で「事業主貸」で事業用から外します。

借入金は、銀行に債務引受の可否を確認します。

手順2:開始貸借対照表(設立時の貸借対照表)を作る

法人の設立時点の貸借対照表を作ります。

資産の部に、資本金で入れた預金と引き継ぐ資産、負債の部に、引き継いだ借入金と役員借入金、純資産の部に資本金です。

会計ソフトの「開始残高」の設定画面に、この内容を入力します。

手順3:引き継ぎの日に、法人側で一括して記帳する

引き継ぎの日(設立日や廃業日)付けで、資産ごとの仕訳を一括して入れます。

売買契約書(簡単なもので可)や資産の一覧表を、仕訳の根拠として保存します。

個人側は、廃業日までの帳簿で売却の処理をし、最後の確定申告に反映します。

資産の種類別の引き継ぎ方法と仕訳

資産 おすすめの方法 法人側の仕訳 個人側の扱い
在庫(商品・材料) 売買(時価=原価) 商品/役員借入金 事業所得(売上)
パソコン・備品 売買(簿価) 工具器具備品/役員借入金 譲渡所得(簿価なら損益なし)
車 売買(中古相場)または賃貸 車両運搬具/役員借入金 譲渡所得。名義変更と自動車税に注意
不動産 賃貸が多い(売買は登録免許税・不動産取得税) 賃借料/普通預金 不動産所得(賃料)
借入金 債務引受(銀行の同意) 役員借入金/借入金 銀行と契約の変更
預金 引き継がない(必要分を役員借入金で) 普通預金/役員借入金 個人の財産のまま
売掛金・買掛金 原則引き継がない(個人で回収・支払い) — 個人の事業所得で処理
ユイユイ

個人で使っていたパソコンや在庫を、会社でそのまま使っていいですか?

ケイケイ

そのままはだめ。会社が個人から買う形にする。法人側は「備品/役員借入金」、個人側は備品なら譲渡所得、在庫なら売上。代金はあとで会社から返せばいい。

ユイユイ

個人の借入金はどうなりますか?

ケイケイ

銀行の同意があれば、会社が引き受ける(債務引受)。同意がなければ個人の借入のまま返す。先に銀行に相談しよう。

よくある質問

個人の資産を会社に移す方法は、何がありますか?

売買(会社が買う)、現物出資(資本金にする)、賃貸(個人が貸す)の3つです。

ひとり会社では、金銭で設立してから売買で移すのが最も簡単です。

売買の仕訳は、どう書きますか?

法人側は、借方に資産の科目(商品・工具器具備品など)、貸方に「役員借入金」(代金を払わない場合)または「普通預金」です。

個人側は、在庫なら事業所得の売上、備品や車なら譲渡所得です。

売却の価格は、いくらにしますか?

時価が原則で、備品や車は個人の帳簿の未償却残高(簿価)を使うのが一般的です。

中古相場が分かるものは相場を参考にします。

借入金は会社に引き継げますか?

銀行の同意を得て債務引受をすれば引き継げます。

同意が得られない場合は、個人の借入のまま返済します。

消費税はかかりますか?

個人が課税事業者なら、会社への売却は課税売上として廃業年の消費税申告に含めます。

免税事業者なら処理はありません。

開始貸借対照表とは何ですか?

法人の設立時点の貸借対照表で、資本金の預金、引き継いだ資産、引き継いだ負債と役員借入金、資本金で構成します。

会計ソフトの開始残高として入力します。

まとめ:次の一手

法人成りの資産引継ぎは、売買・現物出資・賃貸の3つの方法があり、ひとり会社では金銭で設立してから売買で移す形が最も簡単で、法人側は「資産/役員借入金」、個人側は在庫なら事業所得、備品や車なら譲渡所得で処理します。

借入金は銀行の同意を得て債務引受し、預金は引き継がず、引き継ぐ資産と負債の一覧から開始貸借対照表を作って、引き継ぎの日に一括で記帳します。

次の一手は、個人事業の固定資産台帳と在庫表から、会社で使う資産を選んで、時価(簿価)を書き込んだ一覧表を作ることです。

役員借入金のその後の扱いは、あわせて読みたい記事で確認してください。