ひとり会社は、仕事を外注することも、業務委託で仕事を受けることも、両方あります。
どちらの立場でも、口約束で始めてトラブルになるのを防ぐのが「業務委託契約書」です。
さらに、2024年11月からフリーランス法が施行され、個人に発注する側には、取引条件の明示や支払期日の義務が課されるようになりました。
この記事では、業務委託契約書のひな形を条項ごとに解説し、請負と準委任の違い、フリーランス法で発注者に義務づけられたこと、収入印紙、電子契約までまとめます。
根拠は、公正取引委員会・厚生労働省・中小企業庁の「フリーランス・事業者間取引適正化等法」の説明資料とQ&A、民法(請負・委任)、印紙税法で、2026年10月15日時点の内容を確認しています。個別の契約の法的な判断は、弁護士に相談してください。
筆者はひとり会社の代表として、外注と受注の両方で業務委託契約書を自分で作り、取り交わしています。
- 業務委託契約書の必須条項は、業務内容、報酬と支払期日、契約期間、納品と検収、知的財産権、秘密保持、再委託、解除、損害賠償、反社排除、合意管轄の11項目。請負(成果物)か準委任(業務の遂行)かを最初に決める
- 2024年11月1日施行のフリーランス法で、フリーランスに発注する事業者は、業務内容・報酬額・支払期日などを書面かメール等で直ちに明示し、納品から60日以内のできる限り早い日を支払期日にする義務がある。ひとり会社が個人に外注する場合も対象
- 請負契約書には収入印紙(契約金額により200円〜)が必要だが、電子契約なら不要。準委任契約は原則として印紙不要
業務委託契約の2つの型:請負と準委任
- 請負:成果物の完成に対して報酬を払う
- 準委任:業務の遂行に対して報酬を払う
- どちらにするかで、条項が変わる
請負:成果物の完成に対して報酬を払う
請負は、サイト制作、デザイン、原稿、プログラムなど、「完成した成果物」を納めることで報酬が発生する契約です(民法第632条)。
成果物に欠陥があれば、受託者は修補や損害賠償の責任(契約不適合責任)を負います。
納品、検収、著作権の帰属の条項が重要になります。
準委任:業務の遂行に対して報酬を払う
準委任は、コンサルティング、事務代行、保守運用、時間単位の作業など、「業務を行うこと」自体に報酬が発生する契約です(民法第656条)。
成果物の完成は約束せず、善良な管理者の注意をもって業務を行う義務(善管注意義務)を負います。
業務の範囲、稼働時間や報告の方法、月額の報酬の条項が重要になります。
どちらにするかで、条項が変わる
契約書の冒頭で、請負か準委任かを明確にします。
「本契約は、民法上の請負契約とする」「本契約は、民法上の準委任契約とする」と書くのが分かりやすい方法です。
実態が雇用(指揮命令を受けて働く)に近いと、業務委託の形をとっていても労働者と判断されることがあるので、仕事の進め方を受託者の裁量に委ねる内容にします。
ひな形:必須の11条項と書き方
- 第1〜3条:業務内容・報酬と支払期日・契約期間
- 第4〜6条:納品と検収・知的財産権・秘密保持
- 第7〜11条:再委託・解除・損害賠償・反社排除・合意管轄
第1〜3条:業務内容・報酬と支払期日・契約期間
第1条(業務内容)は、何を、どこまでやるかを具体的に書きます。「Webサイトの制作(トップページおよび下層5ページ、レスポンシブ対応)」のように、範囲が分かる書き方にします。範囲外の作業は別途見積もりとする旨も入れます。
第2条(報酬と支払期日)は、報酬の額(税込か税抜か、消費税の扱い)、請求のタイミング、支払期日(「納品月の翌月末日」ではなく、具体的に特定できる定め方)、振込手数料の負担を書きます。フリーランス法の対象となる発注では、納品から60日以内の日にします。
第3条(契約期間)は、開始日と終了日、更新の有無(自動更新か、合意で更新か)、更新しない場合の予告期間を書きます。
第4〜6条:納品と検収・知的財産権・秘密保持
第4条(納品と検収)は、納品の方法、検収の期間(「納品後○営業日以内に検収し、その間に異議がなければ検収完了とみなす」)、修正の回数や範囲を書きます。
第5条(知的財産権)は、成果物の著作権がいつ誰に移るか(検収完了と報酬の支払いをもって発注者に移転、など)、著作者人格権を行使しないこと、受託者が自分の実績として公開できるかを書きます。
第6条(秘密保持)は、業務で知った相手の情報を第三者に漏らさないこと、契約終了後も一定期間続くことを書きます。
第7〜11条:再委託・解除・損害賠償・反社排除・合意管轄
第7条(再委託)は、受託者が第三者に再委託できるか(発注者の事前の書面の承諾を要する、など)を書きます。
第8条(解除)は、相手が契約に違反したとき、破産などのときに解除できることと、中途解約の予告期間を書きます。フリーランス法では、6か月以上の契約を中途解除する場合、発注者は原則30日前までに予告する義務があります。
第9条(損害賠償)は、契約違反による損害の賠償と、上限(報酬の額を上限とする、など)を書きます。
第10条(反社会的勢力の排除)は、互いに反社会的勢力でないことの表明と、該当した場合の解除です。
第11条(合意管轄)は、紛争になったときの裁判所(自社の所在地の地方裁判所など)を書きます。
条項の一覧を表にまとめます。
| 条項 | 書くこと | 発注者が注意する点 | 受託者が注意する点 |
|---|---|---|---|
| 業務内容 | 範囲・仕様・範囲外の扱い | 範囲を具体的に | 無限に広がらないよう範囲外を明記 |
| 報酬・支払期日 | 額・税・請求・支払日・手数料 | 60日以内の特定の日(フリーランス法) | 支払日を具体的に、着手金の有無 |
| 契約期間 | 開始・終了・更新・予告 | 更新の条件 | 中途解約時の報酬の扱い |
| 納品・検収 | 方法・期間・修正 | 検収期間を確保 | 修正回数の上限 |
| 知的財産権 | 帰属・移転時期・人格権・実績公開 | 支払後に移転 | 実績として公開できるか |
| 秘密保持 | 範囲・期間 | 契約終了後も | 一般に知られた情報は除外 |
| 再委託 | 可否・承諾 | 事前承諾制 | 承諾の取り方 |
| 解除 | 事由・予告 | 違反時の解除 | 中途解除時の既発生報酬 |
| 損害賠償 | 範囲・上限 | 上限の妥当性 | 報酬額を上限に |
| 反社排除 | 表明・解除 | 定型で入れる | 同左 |
| 合意管轄 | 裁判所 | 自社所在地 | 遠方だと不利 |
フリーランス法:発注者に義務づけられたこと(2024年11月1日施行)
- 取引条件の明示義務:書面またはメール等で、直ちに
- 報酬の支払期日:納品から60日以内の、できる限り早い日
- 禁止行為と、中途解除の予告
取引条件の明示義務:書面またはメール等で、直ちに
フリーランス・事業者間取引適正化等法(フリーランス法)は、2024年11月1日に施行されました。
公正取引委員会の資料によると、発注事業者は、フリーランス(従業員を使用しない個人や一人法人)に業務委託をしたら、業務の内容、報酬の額、支払期日、発注者と受託者の名称、業務委託をした日、給付の受領日・場所などを、書面または電磁的方法(メール、チャットなど)で直ちに明示しなければなりません。
口頭での発注は認められません。
この明示義務は、フリーランス同士の取引(ひとり会社がフリーランスに発注する場合)も対象です。契約書を交わせば、それが明示になります。
報酬の支払期日:納品から60日以内の、できる限り早い日
発注者は、成果物を受け取った日から60日以内のできる限り早い日を支払期日として定め、期日内に支払う義務があります。
「翌月10日まで」のような定め方では、具体的な日が特定できないため、支払期日を定めたとは認められません。「納品月の翌月末日」のように特定できる形にします。
支払期日を定めなかった場合は、納品日が支払期日になります。
禁止行為と、中途解除の予告
1か月以上の業務委託では、受領拒否、報酬の減額、返品、買いたたき、購入・利用の強制、不当な経済上の利益の提供要請、不当な給付内容の変更・やり直しの7つが禁止されています。
6か月以上の契約を中途解除したり更新しなかったりする場合は、原則30日前までの予告と、求められれば理由の開示が必要です。
ひとり会社が個人のデザイナーやライターに外注する場合は、この法律の「発注事業者」に当たるので、契約書に明示事項と60日以内の支払期日を入れておけば、義務を満たしつつトラブルも防げます。
収入印紙・電子契約・取り交わしの実務
- 収入印紙:請負は必要、準委任は原則不要、電子契約は不要
- 電子契約サービスの使い方
- 取り交わしの手順と、保存
収入印紙:請負は必要、準委任は原則不要、電子契約は不要
請負契約書は、印紙税法の「請負に関する契約書(第2号文書)」に当たり、契約金額に応じた収入印紙(1万円以上100万円以下で200円、100万円超200万円以下で400円など)を貼ります。
継続的な取引の基本契約書は、第7号文書として4,000円の印紙が必要になることがあります。
準委任契約書は、原則として課税文書ではなく、印紙は不要です。
電子契約(PDFに電子署名)で取り交わした契約書は、紙の「文書」ではないため、印紙税がかかりません。
電子契約サービスの使い方
電子契約サービスを使うと、契約書のPDFをアップロードし、相手にメールで送って、双方が電子署名することで契約が成立します。
印紙が不要になり、郵送の手間もなく、契約書がクラウドに保存されます。
フリーランス法の「電磁的方法による明示」にもなります。
無料プランで月数件まで使えるサービスもあり、ひとり会社なら十分です。
取り交わしの手順と、保存
まず、ひな形を自社用に直し、相手に案を送って内容を確認してもらいます。
修正の合意ができたら、紙なら2部に署名または記名押印して1部ずつ保管、電子契約なら双方が署名します。
契約書は、税務上の帳簿書類として、事業年度終了から7年間(欠損金がある年は10年)保存します。電子契約のデータは、電子帳簿保存法の電子取引データとして保存します。
ユイデザイナーさんに外注するんですが、メールで「お願いします」だけで始めてもいいですか?
ケイフリーランス法で、業務内容・報酬・支払期日などを書面かメールで明示する義務がある。契約書を交わせばそれで足りる。支払期日は納品から60日以内の特定の日にしよう。
ユイ契約書に印紙を貼るんですか?
ケイ紙の請負契約書なら、金額に応じて200円から。準委任なら原則不要。電子契約にすれば、請負でも印紙は要らない。
よくある質問
業務委託契約書に、必ず入れる条項は何ですか?
業務内容、報酬と支払期日、契約期間、納品と検収、知的財産権、秘密保持、再委託、解除、損害賠償、反社会的勢力の排除、合意管轄の11項目です。
請負と準委任は、どう違いますか?
請負は成果物の完成に対して報酬を払う契約、準委任は業務の遂行に対して報酬を払う契約です。
契約書の冒頭でどちらかを明示します。
フリーランス法は、ひとり会社にも関係ありますか?
関係あります。
ひとり会社が個人や一人法人に発注する場合は「発注事業者」として、取引条件の明示と60日以内の支払期日などの義務があります。ひとり会社が受注する側なら、保護される側です。
支払期日は、どう定めればよいですか?
納品(給付の受領)から60日以内で、できる限り早い、特定できる日です。
「翌月10日まで」は特定できないため認められず、「納品月の翌月末日」のように定めます。
収入印紙は必要ですか?
紙の請負契約書は、契約金額に応じた印紙が必要です。
準委任契約書は原則不要で、電子契約ならどちらも不要です。
契約書は何年保存しますか?
税務上の帳簿書類として、事業年度終了から7年(欠損金がある年は10年)保存します。
まとめ:次の一手
業務委託契約書は、請負か準委任かを決めたうえで、業務内容、報酬と支払期日、契約期間、納品と検収、知的財産権、秘密保持、再委託、解除、損害賠償、反社排除、合意管轄の11条項を入れます。
2024年11月施行のフリーランス法で、個人に発注するひとり会社には、取引条件の明示と納品から60日以内の支払期日の義務があります。紙の請負契約書には印紙が要り、電子契約なら不要です。
次の一手は、上の条項一覧をもとに、自社が「発注する側」と「受注する側」のひな形を1つずつ作り、電子契約サービスの無料プランに登録することです。
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