電子帳簿保存法の電子取引データの保存で、ひとり会社がいちばん安く「真実性の要件」を満たす方法が、「事務処理規程」を作ることです。
タイムスタンプのサービスや専用システムを使わず、国税庁のサンプルを自社用に直すだけで済みます。
ただ、「規程」という言葉で身構えてしまい、手を付けていない人が多いのも事実です。
この記事では、事務処理規程が必要な理由、国税庁のサンプルの構成、各条文の意味とひとり会社用の直し方、作ったあとの保管と運用を説明します。
根拠は国税庁の電子帳簿保存法の案内(電子取引データの保存方法)と、公開されているサンプル規程で、2026年10月15日時点の内容を確認しています。
筆者はひとり会社の代表として、この規程を自分で作って運用しています。
- 事務処理規程は、電子取引データの「真実性」を担保する4つの方法のうち、タイムスタンプや専用システムが不要で、費用ゼロで満たせる方法。ひとり会社に最も向く
- 国税庁が法人用と個人事業者用のサンプルを公開している。会社名、管理責任者(社長)、保存場所、対象の取引を自社用に直せば完成する
- 作ったら社内規程として保管し、電子取引データを訂正・削除するときは規程どおりに記録を残す。税務調査で提示できるようにしておく
事務処理規程が必要な理由:真実性の要件
- 真実性の要件を満たす4つの方法
- 規程は費用ゼロで満たせる
- 規程を作るだけでなく「守る」ことが要件
真実性の要件を満たす4つの方法
電子取引データの保存では、データが改ざんされていないこと(真実性)を担保する必要があります。
国税庁の案内では、次の4つのいずれかで満たします。
タイムスタンプが付されたデータを受け取る。受け取ったあと速やかにタイムスタンプを付す。訂正・削除の履歴が残る(または訂正・削除できない)システムで受け取り保存する。そして、訂正・削除の防止に関する事務処理規程を定めて守る。
規程は費用ゼロで満たせる
タイムスタンプは有料のサービスが必要で、訂正・削除の履歴が残るシステムも、対応した会計ソフトやストレージが要ります。
事務処理規程は、文書を作って守るだけなので、費用がかかりません。
受け取ったPDFをパソコンのフォルダに保存している会社でも、規程があれば真実性の要件を満たせます。
規程を作るだけでなく「守る」ことが要件
要件は「規程を定め、その規程に沿った運用を行う」ことです。
作って引き出しにしまうだけでは足りず、実際にデータを訂正・削除するときは、規程に書いた手順と記録を守ります。
とはいえ、受け取った請求書のPDFを訂正・削除する場面は、ひとり会社ではほとんど起きません。「原則として訂正・削除しない」と決めておけば、運用はシンプルです。
国税庁のサンプルの構成と、各条文の意味
- 第1章 総則:目的・適用範囲・管理責任者
- 第2章 電子取引データの取扱い:範囲・保存方法
- 第3章 訂正・削除:原則禁止と、やむを得ない場合の手順
第1章 総則:目的・適用範囲・管理責任者
国税庁の法人用サンプル「電子取引データの訂正及び削除の防止に関する事務処理規程」は、おおむね次の構成です。
第1条(目的)は、電子計算機を使用して作成する国税関係帳簿書類の保存方法等の特例に関する法律(電子帳簿保存法)に基づき、電子取引データを適正に保存するための規程であることを書きます。
第2条(適用範囲)は、この規程が会社のすべての役員と従業員に適用されることを書きます。ひとり会社なら、社長ひとりに適用されます。
第3条(管理責任者)は、電子取引データの管理責任者を定めます。ひとり会社なら「代表取締役(代表社員)」です。
第2章 電子取引データの取扱い:範囲・保存方法
第4条(電子取引の範囲)は、どんな取引が対象かを列挙します。EDI取引、電子メールによる取引、インターネットのサイトを通じた取引、クラウドサービスを利用した取引など、自社で実際にある形態を書きます。
第5条(取引データの保存)は、受け取った電子取引データを、保存場所(会計ソフトの保存機能、クラウドストレージ、社内サーバーのフォルダなど)に、法定の期間(原則7年、欠損金がある年は10年)保存することを書きます。
ひとり会社なら、「会計ソフト○○の証憑保存機能」や「クラウドストレージ○○の『電子取引』フォルダ」のように、具体的な保存場所を書きます。
第3章 訂正・削除:原則禁止と、やむを得ない場合の手順
第6条(訂正及び削除の原則禁止)は、保存した電子取引データを原則として訂正・削除しないことを書きます。
第7条(訂正及び削除を行う場合)は、やむを得ず訂正・削除する場合の手順です。取引先からの再発行や誤送信など、理由がある場合に、管理責任者の承認を得て行うこと、訂正前のデータを残すか、訂正・削除の記録(日付、内容、理由、承認者)を「訂正削除記録簿」などに残すことを書きます。
第8条(記録の保存)は、その記録を電子取引データと同じ期間保存することです。
サンプルには、訂正削除の申請書や記録簿の様式も付いているので、そのまま使えます。
ひとり会社用に直す手順と、記入例
- 手順1:国税庁のサイトからサンプルを入手する
- 手順2:会社名・管理責任者・電子取引の範囲・保存場所を直す
- 手順3:施行日を入れて、代表者が記名押印する
手順1:国税庁のサイトからサンプルを入手する
国税庁の「電子帳簿等保存制度特設サイト」に、「電子取引データの訂正及び削除の防止に関する事務処理規程」のサンプルが、法人用と個人事業者用で公開されています(Wordファイル)。
法人なら法人用を使います。
手順2:会社名・管理責任者・電子取引の範囲・保存場所を直す
直す箇所は、主に4つです。
| 箇所 | サンプルの記載 | ひとり会社の記入例 |
|---|---|---|
| 会社名 | ○○株式会社 | 合同会社○○(登記どおり) |
| 管理責任者 | ○○部長など | 代表社員 ○○(氏名) |
| 電子取引の範囲 | EDI、電子メール、インターネット取引、クラウド… | 実際にある形態だけを残す(電子メールによるPDFの受領、サイトからの領収書のダウンロード、クラウドサービスの利用明細など) |
| 保存場所 | ○○システム、○○サーバー | 会計ソフト○○の証憑保存機能、またはクラウドストレージ○○の「電子取引データ」フォルダ |
訂正・削除の承認者も、管理責任者と同じ代表者にします。ひとり会社では「自分が申請して自分が承認する」形になりますが、記録を残すことに意味があります。
手順3:施行日を入れて、代表者が記名押印する
附則に「この規程は、令和○年○月○日から施行する」と施行日を入れます。
電子取引データの保存義務が始まった令和6年1月1日以前の日付にする必要はなく、作った日で構いません。
最後に、代表者の記名押印(または署名)をします。押印は法律上の要件ではありませんが、社内規程として正式に定めたことを示すために入れておきます。
保管と日常の運用
- 保管:PDFと紙で、税務調査で提示できるように
- 日常の運用:保存するだけ。訂正・削除はしない
- やむを得ず訂正・削除するとき:記録簿に残す
保管:PDFと紙で、税務調査で提示できるように
作った規程は、PDFにしてクラウドストレージに保存し、紙にも印刷して会社の書類と一緒に保管します。
税務調査で「電子取引データの保存要件をどう満たしているか」を聞かれたときに、この規程を提示します。
規程を見直したときは、改定日と改定内容を附則に追記します。
日常の運用:保存するだけ。訂正・削除はしない
日常の運用は、受け取った電子取引データを、規程に書いた保存場所に保存するだけです。
受け取ったPDFの内容が間違っていた場合は、自分で直すのではなく、取引先に再発行を依頼し、再発行されたデータを新たに保存します。元のデータも残しておきます。
これが「訂正・削除をしない」運用で、ほとんどの場面はこれで済みます。
やむを得ず訂正・削除するとき:記録簿に残す
誤って私用の領収書を保存した、同じファイルを二重に保存した、といった場合に削除するなら、規程の手順に従います。
訂正削除記録簿に、日付、対象のデータ、理由、承認者(自分)を書いて保存します。
記録簿は、Excelや会計ソフトのメモ機能でも構いません。「いつ、何を、なぜ消したか」が残っていれば足ります。
事務処理規程の構成と、ひとり会社の記入のまとめ
| 条文 | 内容 | ひとり会社の記入 |
|---|---|---|
| 第1条 目的 | 電子帳簿保存法に基づく電子取引データの適正な保存 | サンプルのまま |
| 第2条 適用範囲 | 役員・従業員全員に適用 | サンプルのまま(社長ひとりに適用される) |
| 第3条 管理責任者 | 電子取引データの管理責任者 | 代表者の役職と氏名 |
| 第4条 電子取引の範囲 | 対象となる取引の形態 | 実際にある形態(メール添付、サイトからのDL、クラウド明細)だけを残す |
| 第5条 保存 | 保存場所と保存期間 | 会計ソフトの証憑機能またはクラウドのフォルダ、7年(欠損金がある年は10年) |
| 第6条 訂正・削除の原則禁止 | 原則として訂正・削除しない | サンプルのまま |
| 第7条 訂正・削除を行う場合 | 理由・承認・記録の手順 | 承認者を代表者に。記録簿の様式はサンプルを使う |
| 第8条 記録の保存 | 訂正削除の記録を同じ期間保存 | サンプルのまま |
| 附則 | 施行日 | 作成した日 |
ユイ「規程」って、何を書けばいいのか見当もつきません。
ケイ国税庁がサンプルを出している。会社名、管理責任者(自分)、電子取引の範囲、保存場所の4か所を直せば完成。1時間もかからないよ。
ユイ作ったあとは、何かすることがありますか?
ケイ日常は、受け取ったデータを決めた場所に保存するだけ。訂正や削除はしない。どうしても消すなら、記録簿に理由を書いて残す。それだけ。
よくある質問
事務処理規程は、必ず作らないといけませんか?
タイムスタンプや訂正・削除の履歴が残るシステムを使わない場合は、真実性の要件を満たすために必要です。
対応した会計ソフトの保存機能を使っている場合は、そのソフトの要件で満たせることがあります。
サンプルはどこで手に入りますか?
国税庁の電子帳簿等保存制度特設サイトに、法人用と個人事業者用のWordファイルが公開されています。
ひとり会社でも、承認者や記録は必要ですか?
必要です。
自分が申請して自分が承認する形になりますが、訂正・削除の記録を残すことが要件です。
税務署に提出するのですか?
提出は不要です。
社内規程として保管し、税務調査で求められたときに提示します。
保存期間は何年ですか?
原則7年で、欠損金が生じた事業年度は10年です。
規程にこの期間を書いておきます。
個人事業主の場合は?
国税庁の個人事業者用サンプルを使います。
管理責任者は事業主本人で、構成は法人用とほぼ同じです。
まとめ:次の一手
事務処理規程は、電子取引データの真実性の要件を費用ゼロで満たす方法で、国税庁のサンプルの会社名・管理責任者・電子取引の範囲・保存場所を直せば完成します。
作ったらPDFと紙で保管し、日常はデータを保存するだけ、やむを得ず訂正・削除するときは記録簿に残します。
次の一手は、国税庁の特設サイトから法人用のサンプルをダウンロードし、上の表の4か所を今日中に直すことです。
電子帳簿保存法の義務の全体と、対応しない場合の扱いは、あわせて読みたい記事で確認してください。
